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巻頭随筆

学校に願うこと:知識と実行力を    奥山眞紀子

 

 学童期に入った子どもが虐待で命を落としたり、重傷を負うという痛ましい事件が起き、学校という場が虐待防止の最前線であることが改めて認識されたのは記憶に新しいところです。

 学校が虐待を発見できる場であることは間違いありません。子どもは家庭での状況を学校という社会に反映しますし、学校でSOSを出すことも結構多いのです。日々子どもたちと接している先生方は、子どもの変化をキャッチできる立場にありますし、養護教諭やスクールカウンセラーは子どもの相談の中からSOSをくみ取ることができるかもしれません。

 しかし、子どもが自ら虐待をされていることを訴えることほとんどないことも事実です。つまり、アンテナを高くして、子どもの不自然さを見逃さないようにしないと、子どもを救うことができないのです。不自然な傷や言動などに気づくことが大切です。夏なのに長袖で傷を隠す、同じ形の傷がいっぱいある、傷について聞くと説明がころころ変わる、家のことについて奇妙なことを言うなどについて、気にとめないと過ぎていってしまいますが、それを見逃すことにより、より重篤な虐待に至ることもあるのです。

 また、性的虐待を受けている子どもが打ち明ける場所の多くは、学校です。ある性的虐待を受けた子どもは、「どうして今年になって打ち明けたの?」と聞かれたとき、今年の担任はわかってくれると思ったと答えていました。日々の生活の中で、子どもを理解し、受け入れようと努めている先生には、子どもは大きな壁を突き破って語ってくれるのです。そんな日々の子どもとの関わりも大切です。

 とはいえ、一人ひとりの力では「虐待でなかったらどうしよう?」「考えすぎかな」など、虐待を打ち消すほうに流れてしまいがちです。また、通告も担任としてはためらわれることもあるでしょう。気になることがあったら相談できるチームを学校の中に作ることをお勧めします。そのチームには、管理職の先生、養護教諭の先生、スクールソーシャルワーカーなども入ってもらい、情報を集め、虐待が疑われるなら、学校の決定として児童相談所や福祉事務所に通告するようなシステムとなることが有効です。さらにそのチームが、常に要保護児童対策地域協議会の一員として機能し、個別のケースには担任と共に他機関と連携していくことで、虐待の発見や判断、対応ケアなどの力も高まります。学校は地域の支援システムの一員として虐待対応をすることが求められているのです。そのようなチームがあれば、担任の先生なども一人で悩まずに相談ができますし、学校外との連携も行いやすくなります。

 最後に、子ども虐待の本質は「権利侵害」です。ですから、子どもに権利教育を行っていくことは、子どもが自分におきていることを開示したり、そこから脱出してトラウマから回復する力をつけることに繋がります。そのためにも、学校は子どもの権利擁護の場でなければなりません。常に「子どもの権利」を意識して行動することが、虐待を見逃さないこと、子どもを守ることに繋がります。先生方一人ひとりが、そして学校全体が、もう一度、「子どもの権利」について知識と実行力を持つことが大切です。子どもの幸せのために。

 
執筆者紹介
奥山眞紀子(おくやま・まきこ)

国立成育医療研究センターこころの診療部部長。医学博士。専門は小児精神保健、子どものトラウマ、子どもの調節障害。著書に『保育者・教師のための子ども虐待防止マニュアル(新版)』(共著、ひとなる書房、2008年)、『医療従事者のための子ども虐待防止サポートブック』(共著、クインテッセンス出版、2010年)、『子どもの心の診療医になるために』(共著、南山堂、2009年)など。

 
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