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巻頭随筆

発達障害児への教育のかかわり    針塚 進

 

 「発達障害」とは何かについては、「教育と医学」(2010年8月号)において詳しく述べられています。その定義は、「(発達障害者支援法では)自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされています(黒木俊秀、前掲誌、4頁)。また発達障害の診断・治療については、「教育と医学」(2010年9月号)で取り上げられています。このように「発達障害」の概念、診断、治療については、主として医学の領域からの知見と情報をもとに検討されてきました。そこで本号では、発達障害を教育という側面から考えるものです。しかし、教育では発達障害それ自体にアプローチすることはできず、発達障害をもつ子どもの教育ということを考えるものですから、子どもの個別性や子どもの発達という視点が強調されることになります。

 文部科学省によれば、小中学校児童・生徒の6.3%が発達障害に該当するということです。すなわち、通常学級にも多くの発達障害児が在籍してきているので特別な支援を必要とする教育が行われるという現況になってきています。それでは、この発達障害児の教育において配慮すべきこととは何でしょうか。学校教育では学校・学級集団への適応と学力のことが強調されることが多いですが、発達障害児については特に問題となっているのは、学級集団への適応や友達との良好な対人関係をもつことの困難さです。発達障害をもつ子どもは、相手の気持ちの理解や相手の立場に立ったものの見方をすることが難しいので、相手からは自分勝手だと思われたり、周りの人のことやその場の雰囲気を考えないことや衝動的な行動や極端な言動などで、喧嘩になったり、傷つくことばを投げかけられたり、無視されるという「いじめ」にあったりもします。しかし、これらの多くの子どもは、彼らに配慮のできる大人との間では適応的な対人関係をもつことができます。つまり、お互いが相手の立場を考えることができるような対人関係場面の中で活動ができる教育方法が考えられなくてはなりません。それには、社会的なルールを学ぶ経験も必要ですが、自分が受け入れられたり、相手を受け入れたりしたときの気持ちなどに気づけるような、自分と他者の情動についての気づきの体験がもてるような教育の場がほしいのです。

 発達障害児においては、年長になるについて自尊感情の低下などによって、さらなる対人関係の困難さを引き起こし、不登校や引きこもりなど二次的障害といわれる問題も出てくることも留意しなくてはなりません。

 さらに、子どもの養育の中心となる保護者や家族への支援は、子ども本人の発達支援と同等以上に大切なことです。子どもの発達は、保護者自身や家族がその子どもを受け入れ、子どもの発達に向けた養育を行っていく意欲と希望に支えられています。それは、学校や家庭における子どもの適切な発達支援のあり方のみならず、学校卒業後の展望にかかわる支援という視点が必要となります。

 最近では、発達障害をもつ大学生や大学院生も大きな問題になりつつあります。ここでも問題となる主なことは、ゼミの仲間や指導教員との対人関係の困難さということです。大学教育では一般に多くのことが学生個人の責任に帰することが多いのですが、大学でも学生個人に配慮した教育の時代になってきているのです。

 
執筆者紹介
針塚 進(はりづか・すすむ)

九州大学大学院人間環境学研究院教授。教育学博士。専門は臨床心理学。九州大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。山形大学教育学部助教授、九州大学教育学部助教授などを経て現職。著書に『講座 臨床心理学4巻・異常心理学II』(共著、東京大学出版会、2002年)、『障害動作法』(共著、学苑社、2002年)、『臨床心理学研究の技法』(共著、福村出版、2000年)、『軽度発達障害児のためのグループセラピー』(監修、ナカニシヤ出版、2006年)など。

 
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