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巻頭随筆

学校の危機対応  高階玲治

 

 「災害は忘れた頃にやってくる」「備えあれば憂いなし」

 かつてはこのような警句が真実味を帯びて語られていた。最近は「災害はいつ起きるかわからない」という声が圧倒的に多い。しかも想定外の異常な事件・事故が続く。親の子殺し、子の親殺し、大量殺人、幼児虐待など、ここ10年間の出来事である。命が軽視され、家族の絆すら崩れはじめている。

 学校の危機管理が叫ばれるようになったのは、大阪教育大学附属池田小学校の侵入・殺人がきっかけである。その後、佐世保市の小学校での同級生殺人、学校訪問を装った教師殺傷など頻繁に事件が起きている。調査によれば、幼稚園の保護者の8割近くが通園に不安を感じるという。「安心・安全」が世界の国々の中で最も高いと言われていたわが国の最近の現状である。

 学校の危機対応もまた問われている。学校は従来から安全対策を行ってきたが、最近の事件・事故は、子ども同士のいじめ・暴力行為のほか、不登校、交通事故、中傷による人権侵害など多様化している。教師によるセクハラ、体罰、飲酒運転なども依然としてなくならない。

 文科省等は事件・事故への対応として、平成13年、16年、17年と通知等を出し、学校の安全管理の徹底に努めてきた。チェックリストなど詳細なもので、学校がそうした文書等を校内で共通認識すればかなり効果を上げられるものである。実際、安心・安全に向けた取り組みとして、どこの学校も安全指導全体計画や事故措置マニュアルを作成して、教職員の共通認識・実践を図っているであろう。防災訓練も定期的に実施していると考える。

 それでも事件・事故は起きるのである。そして最近特に重視されるのは、事件・事故を絶対起こしてはならない、という安全対策とともに、起きてしまったあとの対応の重要性である。その対応がまずかったために、事件・事故に加えて混乱を増大させたという例は多い。どう対応すべきであろうか。

 私は、事件・事故が起きたあとの、迅速・適切な対応として十カ条の重要ポイントを考えている。(1)事故・災害発生への対応はすべての業務に優先する。(2)事故発生を自分一人で処理しない。(3)校長・教頭にすぐ報告する。(4)校長・教頭への報告はできるだけメモなど、記録した内容を添える。(5)事故・災害には強いリーダーシップが必要。(6)謝罪とていねいな対応が問題解決をスムーズにする。(7)事故・災害への対応に不可欠な法規の視点。(8)対応が難しい場合は教育委員会や事情のわかる第三者に相談する。(9)事故・災害を教訓として、事後に生かすことが重要。(10)平常時こそクライシスへの心構えが大切。

 また、「子ども110番」など地域セーフティネット構築が重要である。さらに大人が子どもを保護するだけでは限界がある。子ども自身が事件・事故に巻き込まれないための「自己防犯」意識を育てることが大切である。子どもにも危険への対処を自覚させたい。

 学校の危機対応意識は教育への姿勢そのものと言えるものである。教育指導に向き合う真摯な態度や、堅実に実践に取り組む姿勢が危機対応にも活かされることを教育者は十分認識すべきである。

 
執筆者紹介
高階玲治(たかしな・れいじ)

教育創造研究センター所長。北海道教育大学特任教授。専門は教育経営学、学習指導等。北海道学芸大学卒業。小・中学校教員、盛岡大学教授、国立教育研究所室長、ベネッセ教育研究所長等を経て現職。著書に『学力と学習力を高める新しい学習メソッドの展開』(教育開発研究所、2005年)、『新学校経営相談12カ月(全5巻)』(編著、教育開発研究所、2010年)など多数。

 
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