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巻頭随筆
子どもたちに必要なリテラシー教育   荒木 浩一         
 
 

 1999年に「iモード」サービスが開始されインターネットの世界と融合したことで、携帯電話(ケータイ)は、単なる電話機ではなく、世界中の人とつながり情報の受発信ができる情報機器となりました。しかし、進化と普及の速度があまりに速く、利用文化の醸成などの面で、新たな技術を受け入れる社会がその速さに追いついていないために、様々な課題が表面化しているのが現状です。

 モバイル社会研究所の調査研究からも、子どもたちは「メールのやりとりがいつまでも終わらない」という悩みを持っているという報告がなされています。メールの返信で「これ以上だと遅い」と感じるタイミングを、30分以内と答えた子どもが80%以上にのぼっています。子どもたちの中に、「30分以内にメール返信をしないと、相手を嫌っているという意思表示になる」という独自のルールも生まれ、それに縛られてメールのやりとりが止められないでいるというのです。

 子どものケータイ使用に関しては、その利用ルールやマナー等について、大人たちが子どもたちにしっかり教えることが非常に重要であると考えます。出会い系サイトやネットいじめなどが問題となるなか、フィルタリングは、有害サイトから子どもたちを守るうえで大変有効な手段ですが、これに頼るだけでは十分とは言えません。ケータイの保有の有無とは関係なく、子どもたちに、ネットを通じて知り合った人と安易に会ってはいけないこと、他人の誹謗中傷や不用意な個人情報の書き込みをしてはいけないことなど、ネット社会における身の守り方や、情報発信するうえでの留意点などについて、その成長段階に応じてきちんと教えていくことが重要です。ネット社会では自律的な存在として責任ある行動が常に問われることを、自覚させていくことが必要となります。

 このようなリテラシー教育は、学校や事業者など様々な機関が行っていますが、子どもたちと身近に接する親や教師の役割がその鍵となります。親の世代は、ケータイのことは分からないと及び腰になりがちですが、他者への配慮の必要性など、世の中一般の社会ルールやモラル・マナーは、ネットの世界でも通用するものです。親や教師向けのリテラシー教育のための出張教室なども行われており、様々な機会をとらえて知識を習得することも可能です。

 大切なことは、日頃から子どもたちと向き合い、ケータイに関することについて会話する姿勢を持つことです。彼らがケータイをどのように使い、何に悩んでいるかをよく知ること。そして、ケータイの正しい使い方について話し合い、教えていくこと。それにより、何かトラブルが発生したときに子どもたちから相談してもらえるような信頼関係が築けるのです。

 次代を担う子どもたちに適切なリテラシー教育を行っていくことは、大人たちの責務であると言えましょう。ネット社会では世界中の人々とつながっていることの素晴しさと危険性の両面があることを教えていくなかで、子どもたちも、自分の力で考え、判断していく力を身につけ、情報社会の歩き方について学んでいけるのではないでしょうか。

 
執筆者紹介
荒木 浩一(あらき・こういち)

社団法人電気通信事業者協会業務部長。1986年NTT入社。1997年9月NTTドコモに転籍。同社総務部担当課長、経営企画部担当課長、新潟支店営業部長、法人営業本部担当部長を経て、2007年4月モバイル社会研究所副所長。2009年4月から現職(出向)。

 
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