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編集後記  第62巻10号 2014年10月
 

▼最近の小児科外来や病棟では、子どもたちに付き添うお父さんたちの姿をよく見かけます。
 私が小児科医になった数十年前、小児科入院の子どもの付き添いといえばお母さんでした。病気や治療の説明などのときは、もちろん両親で聴いてもらっていましたが、日曜や祭日でも子どもの病室に父親が長くいるという光景は少なかったと思います。
 次第に“父親が付き添います”というご家族が増え、初めての外来受診の付き添いがお父さんということも珍しくなくなりました。小児病棟で父親付き添いの申し出が出始めた頃、お母さんたちが付き添う大部屋には、“お父さんの付き添いはできません”とお断りしていた頃もあったように記憶します。

▼最近は個室の病室が増えたこと、両親ともに仕事をしている家族が多くなったことなどの理由から、子どもの入院でのお父さんの付き添いは、今では当たり前になりました。
 逆に、外来で予約日を決めるときに「私は仕事で忙しくて、その日は病院に来れません。先生は他の曜日には診てもらえないんですか?」といった多忙なお母さんたちが増え、外来予約日を調整するのにもひと苦労することが多々あります。また、子どもが熱を出しても仕事を休みにくいお母さんも多く、体調が悪いまま無理をして保育園や病児保育で過ごすために病気が長引いてしまう子どもたちもいます。

▼核家族の多い現代では、父親の育児や家事への参加はやむを得ない時代です。細やかな優しさで子どもに接して診察の介助をしてくれるお父さんに出会うときなど、微笑ましくなることもあります。一方で、予防接種に同行し子どもが注射で泣くところをビデオに収める父親の姿には、ちょっと抵抗を感じたりすることもあります。
 母親が働きながら育児をする大変さは私自身も体験していますので、父親の育児への関わりは子どもたちにとっても母親にとってもありがたいことです。
 慢性疾患や発達障害などで日々の生活に困難をかかえる家族にとっては、父親の転勤や単身赴任も大きな問題になります。会社へ、勤務先や転勤などの異動への配慮などを相談するために、子どもの病状についての診断書を依頼されることも最近では増えてきました。

▼安定した家族機能は、病気や障害などをもつ子どもたちの安心感につながります。少子高齢化、労働人口が減少していく中で、今後さらに女性が社会の中で大きな役割を果たしながら子育てしていく時代になっていくことでしょう。
 そんな大人の生活のスピードに子どもたちが合わせるだけでなくて、せめて病気のときには、母親が子どものそばに寄り添って生きることができる優しい日本になってほしいと思います。

 

(安元佐和)
 
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