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編集後記  第62巻7号 2014年7月
 

▼私は医療政策を研究分野としている。現在、高齢者医療を対象とした医療制度改革が進行中であり、それに対応した高齢者ケアのモデルの構築を行っているが、最重要視しているのは「本人の意思を尊重すること」である。

▼わが国では1973年の老人医療費無料化の政策以降、障害や病気をもった高齢者は医療機関に入院したり、施設に入所したりして最期を迎える文化が定着してきた。高齢者は自宅で最期を迎えることを希望しながらも、「本人の意思」が尊重されることはあまりなかったのである。長期入院や入所で起こってくるのが廃用症候群である。
 廃用症候群とは、「何かの疾病で起きる一次的な障害ではなく、長期の安静臥床など、生活が不活発になること自体によって引き起こされる心身機能の二次的な障害のこと」である。関節拘縮、廃用性骨萎縮、起立性低血圧などのいくつかの症状が関係する。廃用症候群になると、心身機能低下と不活発な生活、社会参加の制約の3つの要因が悪化を助長するプロセスが始まり、廃用症候群も寝たきり度もどちらも悪化していくことになる。また、認知症になったということで、知っている人もいない施設に収容されたのでは、うつ状態を誘発し、認知症を進行させることにつながってしまうのである。このような高齢者ケアはもちろん望ましいものではない。

▼考えてみれば、わが国では高齢者ばかりでなく、子どもを含めて障害をもった人のケアは主に医療機関や施設でなされてきた。自由の制限のある場所で管理されていては、「本人の意思の尊重」や「自立支援」はむずかしい。スウェーデンでは1982年に、社会サービス法が施行され、@ホリスティック(総合的)な見方、Aノーマライゼーション、B継続性、C弾力性、D地域中心、E自己決定と選択の自由、という原則に沿ったケアが行われるようになっている。
 「ホリスティックな見方」とは、個人の障害や疾病の対応に関心を集中するのではなく、生活、仕事、家庭環境などすべての面を考慮すること、である。「ノーマライゼーション」とは、障害があっても普通に生活できるように支援すること、である。「継続性」とは、同じスタッフによって継続的にケアされること、である。「地域性」とは、慣れ親しんだ地域でケアを受けられること、である。「弾力性」とは、個人のニーズに合ったケアを行うこと、である。そして、「自己決定と選択の自由」を保障することこそが、「本人の意思を尊重すること」につながるのである。

▼これらの原則を障害者の生活や人生に反映させていくためには、地域で障害者を支える仕組みを構築していかなければならない。すなわち、障害者のニーズに応じた「住まい」を用意し、見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスを行うとともに、医療・介護の分野との連携を行い、障害の進行が予防できるような支援を行うことが必要であると思われる。

 

(馬場園 明)
 
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