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編集後記  第62巻5号 2014年5月
 

▼教育の変革期である。教育委員会制度も変わろうとしている。また、大学入試制度の改革、学習指導要領の早期改訂も模索され始めている。新聞報道で見る限り、全国一斉学力テストも結果の公開の方向で動いているが、どれも大人目線の気がしてならない。子どもたちや教育現場は、翻弄されている。「教育の本質は」「子どもたちにとって大切なことは何か」。教育に携わる者は、行政も研究者も現場ももっと考えていく必要がある。
 PISAの学力調査が発表され、国際学力調査では、日本は順位を少し上げた。その成果を近年の学力調査など、学力向上のために頑張った成果だという論調もあった。本当にそうであろうか。今回受けた生徒は小学校・中学校時代をいわゆる「ゆとり教育」で育った生徒たちである。国際競争力の中で勝ち残っていくことは大切なことであるが、その指標としてPISAの学力調査が機能し、その結果に一喜一憂することは、教育の本質を見誤るのではないかと思う。全国一斉学力調査も然りである。

▼12月に東京都にある自由学園の初等部の勉強発表会に参観し、その後、先生方とのシェアリングに参加させていただいた。子どもたちは各学年、学んだことを一生懸命に発表していた。4年生では「木」から環境問題を考える発表であった。なぜ「木」からなのか。それは、子どもたちが学園内にある木に自由に登って楽しんでいるからである。木登りなどによって、木の名前、性質、そして、五感で木のことを感じ取っているからである。木と環境問題を結びつけていくプロセスについて、子どもたちの疑問を教師が後ろから支えながら、調査した結果を生き生きと発表していた。6年生では、大人でも考えることが難しい憲法問題を、正面から話し合ったプロセスを発表していた。ロジカルで冷静な話し合いのプロセスである。国会議員にみてもらってもよいのではないか、と思えるような内容であった。

▼子どもたちはいろいろな好奇心をもっている。その好奇心から疑問を引き出し、学びにつなげていく。教え込みではない、自ら学ぶことを大切にしているのである。学力も必要であるが、自ら考える主体性がそのベースには必要である。「学ぶ楽しさ、教える楽しさ」が第1特集のテーマである。学ぶ楽しさを育てていくことが、教える楽しさ、教師の専門性を担保することにつながると考える。教える楽しさがあれば、本号の第2特集である「教師のメンタルヘルス」の問題も解決するヒントになると考える。「教えなければ」という観念が、子どもの好奇心・主体性を奪い、教師の負担感を増していると思われるからである。

▼2月にソチで行われた冬季オリンピックでは、ゆとり世代の若者がメダルを獲得して、日本国民に感動を与えた。自分の楽しみにしていることを一生懸命やった結果としてのメダル獲得である印象を持つ。自分中心主義の子ども・大人では、国は成り立たないが、点数主義・結果主義だけでは、格差が広がり、教師も子どもたちも疲れていくことは目に見えている。教育のあり方も、評価も再考が必要な時だと思う。

 

(増田健太郎)
 
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