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編集後記  第62巻4号 2014年4月
 

▼私たちの国では、入学式といえば桜が満開の4月と決まっている。初等教育から高等教育まで学年暦の始まりを4月1日としているからである。しかし、近代的な学校制度が始まった明治時代の初頭から4月入学と決まっていたわけではない。当時は、入学時期は学校によってまちまちで、おおよそ春と秋の2回だったらしい。それが明治33(1900)年の小学校令規則で学校年度を4月1日から翌年3月31日までとすることが定められた。大学の4月入学が慣例化したのは、もっと遅く、大正10(1921)年に帝国大学の学年暦を4月1日始まりとしてからである。

▼こうした4月を始点とする学校年度の制定は、政府の会計年度に合わせたものであるが、1年間の児童の成長を春夏秋冬という季節の移り変わりに重ね合わせることが私たちの文化的風土によく馴染んできた。ところが国際的にみると、4月入学を定めている国は珍しく、欧米や中国では9月入学が一般的である。南半球のオーストラリアやニュージーランド、ブラジルでは1〜2月(現地の季節は初秋に相当する)である。当然ながら、日本のような4月入学とは入学の雰囲気もずいぶんと異なる。

▼9月入学による3学期制を採用している英国では、新年度の始まりは実り豊かな収穫期(ハーベスト)の始まりでもあり、学業にスポーツに文化的活動に最も適した時季が到来する。では、日本のような厳かな入学式があるかというと、実はほとんどそのような儀式的な行事を行っていない。むしろ新年度の始まりは、児童が学校に無事に適応してゆくための期間に当てられている。例えば、児童はその生月によって、9〜12月生まれ、1〜4月生まれ、5〜8月生まれの3グループに分けられ、生月の早いグループから順に登校させる。クラス全員の児童が一堂に会するのは数週間後ということになる。同様に始業式もない。というのも、前年度の終わりに移行体験日が設けられており、既に児童は新しい担任教員と顔見知りになっている。そのため、児童は新年度の初日から躊躇なく新しいクラスに入ってゆくのである。こうした英国の状況を知ると、私たちの新年度の始まりの儀式のあり方を見直してもよいのかもしれない。

▼2年ほど前に、東京大学は現行の4月入学を廃止し、欧米の大学と同じ9月入学へ全面的に移行することを発表し、他の国立大学も検討しはじめたことから、大きな注目を浴びた。しかし、入試時期は従来通りのため、高校卒業から入学までに半年間の空白期間(ギャップターム)を生じることが問題視された。また、新卒者の四月採用が一般的なわが国の就労制度のもとでは、就職活動にも支障を来すという懸念も強かった。結局、昨年に大学の9月入学は一旦棚上げとなったが、真に議論すべきは入学をいつにするかではなくて、いかにスムーズに新しい学生生活を軌道に乗せるかという点ではないだろうか。

 

(黒木俊秀)
 
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