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立ち読み  
編集後記  第62巻3号 2014年3月
 

▼大震災から3年目の東北の冬が過ぎ、春が訪れます。地震と津波と放射能の爪痕はいまだに心身に影響を及ぼしています。子どもを守る大人も含めてメンタルヘルスの改善は何よりも大切です。本号では被災した幼児や障がい児童への対応や支援のあり方と子どものストレスケアを取り上げました。未来に向けて立ち上がり、「つなみてんでんこ」のような学びを得る機会になればと思っています。

▼特集1は、不登校再考です。文部科学省は不登校に対する施策として、魅力ある学校作り、心の教育の充実、教員の資質向上と指導体制の充実、学校・家庭・地域社会の連携、教育相談体制の充実、不登校児童生徒に対するきめ細かく柔軟な対応をあげています。しかし不登校児童生徒数は年々増えています。不登校の直接のきっかけは学校、家庭、本人の問題など一人ひとりに固有のものがあります。継続する理由には、不安など情緒的混乱、複合的な理由、無気力などがあげられますが、近年は不登校の要因・背景の複雑化や多様化の傾向が認められます。
 これまでの不登校に対する理解や対応に加えて、不登校を問い直し新たな風穴をあけることが必要な時期のようです。そこで、なぜ減らない不登校、という問題意識のもとに、不登校の現状を踏まえて、不登校という行動の意味を考え、不登校への理解を振り返ること、不登校に対する経験者の視点を持ち、そのうえで不登校への支援を考えることができるような興味深い内容を専門家の先生方に教えていただきました。子どもや家庭や学校が持つそれぞれの枠組みに風穴があき、肩の力が抜ければ新たな展開が起こるのではないかと期待されます。

▼先日、少年野球の子どもたちがキャッチボールや打撃練習をしていました。監督が「いいか、ボールは相手が受け取りやすいように投げるんだ。横にそれたり、全く違う方向に行ったり、相手が受け取れないボールになってしまうのじゃだめだ」とアドバイスをしていました。
 受けやすいボールを投げるためには、相手の観察が必要です。相手の構える手や足の踏ん張り、体力、技量、集中状態、時には不安や焦りなどの心理状態を、その子なりに一瞬のうちに読み取って投げるのです。頭の中は「相手」中心です。尊重と受容、相手の力やその時の状態を見極めた働きかけ、できたことを認めて励ます声かけがごく自然に行われています。教師やカウンセラーなど対人援助職に求められる大切なものが少年野球の朝練の中に見つかって嬉しくなりました。

▼被災地の子どもも不登校の子どもも一人ひとりが独自の存在で、抱えている問題も異なります。私たち大人は相手の状態を見極めたキャッチボールができているでしょうか? 受容・尊重・傾聴と頭では意識していながら、どこかで自分の見方を押し付けていないでしょうか? 子どもの眼はそんな大人をからだ全体で見抜いています。それが心身の不調を訴える背景にあるのではないでしょうか?
 子どもの問題は、大人の対応の鏡ともいえます。子どもの気持ちを考えることと同時に、「相手中心」であるか? と大人の対応を再考することも大切だと思えた散歩でした。

 

(荒木登茂子)
 
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