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立ち読み  
編集後記  第62巻1号 2014年1月
 

▼就職活動中の大学生のほとんどは、思い通りにコトが進まないことを、現実に「我がこと」として経験します。そして「心が折れた」とか「へこんだ」といった言い回しで、自分の気持ちを表現しながらも、「でも、そんなことじゃいけないんですよね。タフにならなきゃ」と殊勝に前を向こうとしています。

▼学生たちが健気にがんばる姿を見ていると、頼もしく感じる一方で、つい「がんばりすぎないようにね。だれでも辛いことがあれば、気分が落ち込むのは当然だよ。ちょっと深呼吸して、気分転換をして、心を整えてから再挑戦してもいいんだよ」と言ってあげたくなるときもあります。大切なのは、落ち込んでも、また挑戦しようとする気持ちを失わないことです。

▼レジリエンスという言葉は、何らかのダメージを受けてしまった後に、元の状態に回復させていく力を意味しています。心理学の領域でも多くの関心を集めており、精神的な回復力としてとらえられています。
 似たような概念にメンタル・タフネスがあって、混同して使われることも時々あるようです。タフネスは、辛いことや悲しいことがあっても、さほど落ち込まずに、平常通りに生活を送れる心の強さを意味することが一般的です。はじめからタフな心を持って生れてくる人は、そうそういないでしょうから、さまざまな辛いことや、悲しいこと、思い通りにいかないことを、何度も繰り返し経験しながら、次第にメンタル・タフネスは獲得されるものだと考えられます。

▼でも気をつけておかねばならないのは、失敗や辛いことばかりでは、「もう一度がんばろう」という気持ちを人は次第に失っていってしまうことです。
 アメリカの心理学者M・セリグマンは、動物を使った実験を行って、自分ががんばってもストレスフルな状況が改善されない経験を長く続けると、実際には少しがんばれば状況を改善できるような状況になっても、もうがんばろうとさえしなくなるようになることを明らかにしました。彼はこの現象を「学習性無力感」と呼んでいます。

▼人は些細なことでも褒めてもらうことで、自分の価値を確認できて、次はがんばろうと思えます。人間、誰でも短所ばかりでなく、長所もあります。長所を見つけて褒めてあげることで、苦難に立ち向かう勇気がわくのです。セリグマンは、学習性無力感の研究を逆手にとって、人間を元気づけ、その幸福感を高める方策を研究していくポジティブ心理学を提唱しています。
 褒めるのとは少し違いますが、「今日一日、いろいろあったけど、こんないいことがあった」と日記につけて、翌朝、読み返すだけでも、元気が湧いてきてレジリエンスにつながるようです。耐え忍ぶだけでなく、こんな工夫にも目を向けたいものです。

 

(徳永 豊)
 
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