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編集後記  第61巻11号 2013年11月
 

▼平成24年12月に文科省から、「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」が示された。小中学校の担任教員が回答した内容から、学習面または行動面で著しい困難を示す生徒6.5%、学習面で著しい困難を示す生徒4.5%、行動面で著しい困難を示す生徒3.6%、学習面と行動面ともに著しい困難を示す生徒1.6%であることが明らかとなった。協力者会議座長大南英明氏も指摘するように、単純に増えた減ったと比較することはできないが、平成14年に行われた調査では、学習面または行動面で著しい困難を示す生徒が6.3%であったことを踏まえると、教育における困難性を教師に感じさせる生徒が増加している今回の報告については、発達障害児の支援に携わる人々は十分に考慮しなければならない。

▼概して、こうした児童の問題は、児童の「特性」として、あくまで、子ども側の問題として語られることが多い。ICF(国際生活機能分類)の考え方からすれば、子どもの学校における教育活動への「活動」や「参加」のあり方は、単なる子どもの個人因子によるものではなく、健康状態や環境因子が強く関与していることが明白であるものの、学校現場においては、やはり、子どもの“側”の特性として語る傾向にあることは否めない。

▼よく、「気になる子ども」ということばで、学校の教師が教育的困難を感じる児童を呼ぶことがあるが、筆者は実は、この“気になり方”が教師の特性として大きく影響しているような気がしてならない。

▼筆者らは、ある地域の幼小中高学校教師を対象にして、教師が気になる児童を想起してもらい、その児童がどのような特徴を有しているのかを回答してもらった上で、教師が自分自身にどのようなパーソナリティ特性を認識するかについても回答してもらった。そして、教師自身の自己特性と、教師が気になる生徒の特性の関係性を分析してみた。その結果、非常に興味深い結果が得られた。例えば、教師自身が「人の話を聞きもらす」などといった注意欠陥多動性障害に見られる不注意傾向を自己認知する場合、生徒の不注意傾向を有意に強く意識していることがわかった。また、「スケジュールや枠組みがないと不安である」「整理整頓されていないと落ち着かない気持ちになる」といった強迫傾向や同一性固執の傾向を教師が強く自己認知する場合、「集団行動ができない」などといった生徒の多動性衝動性などを有意に強く意識化していることがわかった。

▼こうしてみると、ICFの考え方は、言い得て妙である。環境因子の中に教師のパーソナリティ特性を含み入れつつ、児童の示す行動特性の程度を吟味しなければならないということである。言い換えれば、生徒の行動を過大過小評価せず、客観的かつ冷静に見ることができる教師のスキル養成が必要ということである。生徒についても、教師についても、ICF的視点は不可欠である。

 

(遠矢浩一)
 
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