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編集後記  第61巻2号 2013年2月
 

▼今、学校ではいじめや挫折が大きな問題となっている。先生や親や友達に相談する子どもたちの多くが対人関係の問題を抱えている。そしてその背後に、相談に行けず一人で苦しんでいる子どもたちがたくさんいる。
 本号は子どもの世界での「いじめ」と「失敗」に関する特集である。周りはできれば子どもがそのような状況にならないように保護したくなる。しかし、子どもたちが生きていく人生は夢のような楽しいことの連続ではない。彼らは成長する過程で様々な困難にぶつかる。失敗し、不満や不安を味わう。時には嫉妬し、競争心に燃え、勝負に敗れ、欲求不満状態に陥る。そして何らかの方法で立ち直っていく。彼らが好むゲームや漫画やドラマにはこうした心の揺れ動きが生き生きと描かれている。そして虚構や現実とのかかわりから子どもたちは欲求不満からの立ち直り方のモデルを学んでいく。

▼不満があるときの子どもの反応は多様である。他人を攻撃するタイプ、自分を責めて落ち込むタイプ、傍観するタイプ、問題があってもそれを認めないタイプ、自力で解決しようと頑張るタイプ、周りに依存するタイプなど、様々である。失敗を成功の素にできるモデルが周りにあり、立ち直るように支援を受けた子どもは、失敗を成功の素にすることを体験し学んでいくであろう。さらに周りが問題を抱えた自分を支援してくれるモデルを取り入れた子どもは、他人が失敗した時に自分にしてもらった支援を提供できるようになるだろう。子どもの姿は周りの姿でもある。

▼ところで、いじめや挫折の問題は子どもの世界のみにとどまらない。社会人1年生のナースも新たな環境で心が揺れ動いている。ある職場では、新人が嬉しかったことや辛かったことを自由に語り合える場を設けている。嬉しかったことは、「ほめる・承認する」(頑張ったね、成長したね。できるようになったね)、「励まし・ねぎらい・感謝」(応援してるよ、見ているよ、期待しているよ、お疲れ様)、「思いやり」(大丈夫? いつでも相談してね、新人は誰でもそうよ)であった。そして添えられた非言語的メッセージはアイコンタクトや笑顔であった。辛かったことは、「焦りや不安を助長」(なんでできないの? ミスするのはあなただけよ! いらいらする)、「自信喪失や劣等感を助長」(本当に駄目ね!)であった。さらに無視、仲間はずれ、悪口、笑い者、聞えよがしなどの非言語的な態度があがっていた。大人になっても子どもの頃と同じように心が傷つく。そして小さな言葉かけや態度で嬉しいと感じて癒され立ち直っていく。

▼「いじめ」の問題はいつでもどこにもある。しかしそのあり方は時代によって変化してきている。いじめは陰湿化、潜在化し、周りがいじめの兆候に気づく前に悲しい出来事が起きる。未来ある子どもたちを守ること、悲しい出来事を予防し、問題を乗り越えていけるような心を持った大人に育てていくことが、我々大人の課題である。

 

(荒木登茂子)
 
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