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編集後記  第61巻3号 2013年3月
 

▼近年、わが国の大学教育においてもサービス・ラーニングが、だんだんと広がってきています。ただ、一般にはまだサービス・ラーニングという言葉はあまりなじみがないように思われます。わが国では、「サービス残業」や「サービス料」などのように、サービスというと何か余計なものというイメージもあり、サービスとラーニングがなかなか結びつかないのかもしれません。

▼サービス・ラーニングは主にアメリカの大学で発展してきました。英語のサービスには、「神に仕えること」「人の役に立つこと」という意味があり、「軍務につくこと」もサービスと呼ばれています。わが国のある大学のサービス・ラーニングについての定義の中では「学生の自発的な意志に基づいて、一定の期間無償で継続して意味のある社会奉仕活動(サービス活動)を体験することによって、それまで知識として学んだことを実際の体験に生かし、また実際の体験から生きた知識を学ぶ教育のプログラム」と、「サービス活動」を英語のサービスの意味を踏まえた「社会奉仕活動」としています。しかし、わが国ではサービス活動を社会奉仕活動と解する人は少ないでしょう。むしろ、ボランティア活動のほうが社会奉仕活動を意味する言葉として、すんなりと受けとられると思われます。

▼実際、ボランティア活動はサービス・ラーニングの中核的要素となっています。アメリカでサービス・ラーニングが発展してきた背景のひとつとして、アメリカが世界一ボランティア活動に熱心な国だということがあります。OECDの2009年のレポートによると「先月あなたはいずれかの組織・団体でボランティア活動をしましたか?」という問いに「イエス」と回答した15歳以上の割合は38カ国中、トップの41.9%に上っています。日本は24.7%で14位、ちなみに最下位は3.6%の中国です。また、ボランティア活動を促進するために、連邦政府にナショナル・アンド・コミュニティ・サービス機構が設けられ、団体への財政援助、活動へのサポートなどを行っています。同機構は、2011年には6430万人が組織・団体でのボランティア活動に参加し、過去5年で最高であったことを報告しています。

▼アメリカでは、経験主義教育を主張したジョン・デューイの影響もあって、コミュニティとの結びつきを大事にする考え方が教育界では根強くあります。このことも、ボランティア活動などの中に、有意義な教育的リソースを見出したアメリカの教育者たちがサービス・ラーニングを重要な教育方法として取り入れた背景と考えられます。

▼このように、アメリカにおけるサービス・ラーニングの発展は、社会的基盤や教育思想に強固なルーツを持っています。わが国でもサービス・ラーニングの拡大を望む声が大きくなっていますが、その定着にとっては、それを支える社会的基盤の成熟や教育思想の広がりも重要となるのではないでしょうか。

 

(望田研吾)
 

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