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編集後記  第58巻11号 2010年11月
 

▼文部科学省が9月に発表した2009年度の「問題行動調査」によると、わが国の小・中・高校生の不登校者数は前年度に比べると3%減ったものの、17万4158人に上っています。不登校は依然としてわが国の学校教育における深刻な問題であり続けています。ただ、いじめと同様、不登校もわが国特有の問題というわけではなく、多くの国が今、不登校の問題に頭を悩ませています。

▼イギリスでは不登校は「怠学」(truancy)や「無断欠席」(unauthorized absence)と呼ばれており、1日から数日、学校を無断で欠席する場合も含まれます。わが国と同じように、イギリスでも不登校はたびたびニュースに取り上げられる大きな問題となっています。2010年3月25日付のイギリスの新聞・テレビはこぞって「不登校の割合が過去最高に達した」ことを大きく報道しました。例えばデーリー・テレグラフ紙によると2008・2009年度に無断で授業を欠席した生徒の割合は全体の1.05%で、1967年に比べると44%も増加ということでした。また、延べで週1日以上欠席する「常習欠席者」の数は20万8380人と、わが国より少ない人口の割には大きな数に上っています。

▼こうした不登校の原因やその対策にもお国ぶりが出ているようです。デーリー・テレグラフ紙はこんなに無断欠席が増えた大きな理由は、イギリスのほとんどの学校が学期中の観光旅行に伴う欠席を認めていないにもかかわらず、旅費などが安い学期中に子どもを連れて家族旅行に出かける親が急増したためだと報じています。
 もう一つは、不登校と家庭の経済状態との強い結びつきです。2007年の教育水準局による中等学校の不登校に関するレポートは、無償給食受給率が5%以下の学校で出席率が4段階のうち最低ランクだった学校は1%しかなかったのに対して、無償給食受給率が50%以上の学校は最低ランクの学校が28%と、無償給食受給生徒が多い学校ほど不登校が多くなることを指摘しています。

▼イギリスの不登校対策の特徴は、親の責任を厳しく追及することです。子どもの不登校を容認し、子どもを学校に行かせるようにとの地方当局の度重なる勧告を無視する親に対して禁固刑を科すことも行われています。2002年5月、オックスフォード州のあるシングルマザーが、13歳と15歳の娘2人の不登校を放置したとして、60日間の禁固刑を言い渡されたのが最初のケースといわれています。それ以降、子どもの不登校のために刑を科される親は増え続け、2003〜06年までの3年間で71人に達したと報じられています。もちろん、こうした強硬手段やその効果については賛否両論がイギリスでもあります。しかし、政府は、不登校は子どもの学習の機会を奪うものであるとして、強硬策を継続する方針を変えていません。別の見方をすれば、こうした手段をとらざるを得ないほどイギリスの不登校問題が深刻化しているといえるかもしれません。

 

(望田研吾)
 
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