Browse
立ち読み
 
 

 

「はじめに」
 



書籍の詳細はこちらから 


 
 いずれの論考も力作ですが、多くのものに共通しているのは、たとえば、「小学校での英語教育」のように微視的な捉え方で、そのあり方を論じるのではなく、英語教育全体、さらには、学校教育全体を見据えた上で議論を重ねるべきであるという点です。その上で、英語教育は一体何のためのもの(目的)で、何を目指して行うべきであるのか(目標)を明確にすることが急務なのです。


 三回のシンポジウムは最初は小学校での英語教育という特化された問題を出発点にしましたが、議論を重ねていくうちに、いま指摘した点が鮮明に浮かび上がってきました。『小学校での英語教育は必要か』の書評(『英語教育』二〇〇四年十二月号)で、金谷憲は「この本の位置づけは小学校への英語教育の導入についての問題整理ということであるが、「整理」までは至らず、まだ問題の「掘り起こし」の段階だと言える」と指摘しました。この評言はおそらくこの巻にもあてはまるものだと思います。しかし、英語教育に関する本格的議論の貧困さを考えると、私たちの「掘り起こし」の意義は十分にあるものと自負しています。今回の成果を踏み台に、論点の整理と本格的英語教育論が展開されることを願います。

  三回のシンポジウムに参加してくださり、長時間にわたって熱い討論を展開してくださった登壇者の皆さんと聴衆の皆さんに感謝いたします。また、さまざまな形でご支援いただいた慶應義塾大学出版会、ことに、担当の小磯勝人さんに深く感謝いたします。大津研究室秘書の熊谷雅子さんと瀬ノ尾泰世さん、言語文化研究所事務の松田知子さん、大津研究室のメンバーの皆さん、どうもありがとう。なお、このシンポジウムシリーズは慶應塾大学人文科学21世紀COE「心の解明に向けての統合的方法論構築」(代表 西村太良)の活動の一環として開催されたものです。

 これまで、英語教育に関するシンポジウムや書籍は数限りなくありましたが、感情に流されることなく、冷静に、ことの本質を探ろうとする試みはさほど多くなかったと思います。今回のシンポジウムシリーズがそうした状況を変えるきっかけになるとしたら、企画者としてこれ以上の幸せはありません。
 

 

 前のページへもどる
著者プロフィール:大津由紀雄(おおつ ゆきお)
慶應義塾大学言語文化研究所教授、東京言語研究所運営委員長。1948年東京都大田区生まれ。立教中学校から立教大学まで進み、日本経済史を専攻した後、英語教育改革の夢を抱いて、東京教育大学へ学士編入。同大学院修士課程を修了するころまでに、生成文法と認知科学に強く引き付けられる。MIT大学院言語学・哲学研究科博士課程に入学、1981年、言語獲得に関する論文でPh.D.を取得。近著に『小学校での英語教育は必要か』(編著、慶應義塾大学出版会、2004)、『小学校での英語教育は必要ない!』(編著、慶應義塾大学出版会、2005)がある。
※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

他ジャンル

ジャンルごとに「ウェブでしか読めない」があります。他のジャンルへはこちらからどうぞ。
ページトップへ
Copyright © 2004-2005 Keio University Press Inc. All rights reserved.