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 文部科学省の教科調査官である菅正隆は「日本の英語教育の現状と課題」のなかで、とくに中学校と高等学校の英語教育に焦点をあて、その現状を数々の資料を使って分析し、今後の課題を明確にしようとしています。なお、菅の小学校英語についての論考は第二部に収められています。

 第二部は「〈小学校英語〉を考える」で、小学校英語に焦点を絞った論考を収めてあります。 『日本の小学校英語を考える―アジアの視点からの検証と提言』(三省堂、二〇〇五年)という優れた著書を著したバトラー後藤裕子は「小学校での外国語教育―期待すること、考慮すべきこと」の中で、さまざまな国々での実践の調査結果を踏まえて、小学校での外国語教育に期待できることと考慮すべき注意点を冷静に論じています。

 「公立小学校における英語教育―議論の現状と今後の課題」において、大津由紀雄は持論である小学校英語反対論を新たな論点も加えながら展開した上で、言語教育の実践例を示しています。

 京都市において独自の小学校英語実践を重ね、高い評価を得ている直山木綿子は「小学校英語の必要性の主張のあとに必要なこと」において、その実践体験を踏まえた上で、中学校・高等学校における英語教育の課題と改善方向を論じています。同時に、この論考は小学校英語をどう捉えるかについての直山の見解を鮮明に打ち出しているので、第二部に置くことにしました。

 NHKテレビの「わくわく授業」などで知られる田尻悟郎は「小学校での英語教育の意義と課題」において、自身の体験を踏まえて、小学校英語を導入する際に留意しなくてはならない点を具体的に論じています。田尻自身は小学校英語の是非について「いまだ測りかねている部分があります」と述べていますが、この論考はそれに対処しなくてはならなくなった場合、何をどのようにしなくてはならないかを教えてくれます。

 菅正隆の「小学校英語の現状と今後の展望」は「教育新聞」に掲載された記事を転載したものですが、きわめて要領よくまとめられており、有益です。

 第三部は「ことばの教育を考える」と題されています。

 波多野誼余夫の「英語教育の目的―入門教育か運用能力の育成か」は本書のもととなった公開シンポジウムにおける指定討論者のコメントとして用意されたものです。短い論考ではありますが、卓越した認知科学者、教育心理学者、文化心理学者としての波多野の鋭い指摘が数多くちりばめられており、まことに貴重です。

 慶應義塾長であり、優れた認知科学者であり、かつ、筆者の年来の研究仲間である安西祐一郎は今回は筆者との対談という形で持論の「語力教育」の考えを披露してくれました。安西の考えの一端は『小学校での英語教育は必要か』、および『小学校での英語教育は必要ない!』でも開陳されていますが、今回は対談の形をとったので、筆者の質問に答えて、これまでに触れられていない重要な考えも披露されています。多忙な日程の合間を縫って協力してくださった友情に深く感謝したいと思います。
 
 

 

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著者プロフィール:大津由紀雄(おおつ ゆきお)
慶應義塾大学言語文化研究所教授、東京言語研究所運営委員長。1948年東京都大田区生まれ。立教中学校から立教大学まで進み、日本経済史を専攻した後、英語教育改革の夢を抱いて、東京教育大学へ学士編入。同大学院修士課程を修了するころまでに、生成文法と認知科学に強く引き付けられる。MIT大学院言語学・哲学研究科博士課程に入学、1981年、言語獲得に関する論文でPh.D.を取得。近著に『小学校での英語教育は必要か』(編著、慶應義塾大学出版会、2004)、『小学校での英語教育は必要ない!』(編著、慶應義塾大学出版会、2005)がある。
※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

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