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立ち読み  
編集後記  第65巻11号 2017年11月
 

▼「あなたに、レジリエンスはありますか」と問われたら、少し考え込んでしまう。なかったら、この歳まで生きていないだろうし、あると言ったら、そこまで強くないし……。レジリエンスはその時の身体的・心理的状態に影響されるだろう。それが、親子のレジリエンスとなると親自身と子ども自身、そして、関係性をも問われることになる。

▼この夏、愛媛大学理学部で三日間の集中講義を行った。朝九時から午後五時五〇分まで、八五名対象の講義である。学生たちも夏期休業中のため、さすがに最初はやる気が感じられない。講義は一コマ九〇分間である。途中、ペアやグループでディスカッションしたりしていくと関係性ができてくる。そうすると、表情が和んでくる。三コマ目に最後のゴール目標は、各グループのプレゼンテーションであることを明示すると、話を聴く態度も、グループの関係性も強くなる。二日目の午後五時五〇分に講義が終了した後も、自発的に残ったり、学生の家に集まったりしていたようである。身体的疲れは残っているはずであるが、学生たちは意欲的になり、生き生きとしてくる。そのエネルギーを感じると、私までもやる気になってくる。関係性の持つエネルギーとは不思議なものである。

▼話は変わるが、六月にオーストラリアで、同国に暮らす日本の三歳から七歳までの発達障害児の親子合同面接を一セッション九〇分間で行った。文化が違う国で生活するストレスに加え、子育てと発達障害のわが子をどのように教育していけばよいのか、接していけばよいのか、とても悩んでおられた。不安のエネルギーが高いぶん、どの親御さんも熱心に関わっておられた。しかし、熱心に関われば関わるほど、子どもは「思ったように成長してくれない」というジレンマに陥る。無意識のうちに要求水準が高くなること、それは日本に帰った時に幼稚園や学校で適応させたいという親の思いや願いからであった。
 私が親御さんに伝えたのは、「子どもをほめること」である。子どもが癇癪を起こしても、叱らずに、一瞬子どもの泣き声が和らいだ時に、その子どもが好きなおもちゃや絵本を目の前に出し、癇癪がおさまったら、頬をなでながら、「よくがまんしたね」とほめることである。そうすると、子どもは先ほどの癇癪が嘘のように、新しい遊びを始める。親子関係をどう見立て、子どもとどう関わることが子どものやる気を起こすのかを瞬時に判断し、モデルを示すことが求められた。その一カ月後にアンケートをとると親子の関係性に変化が生まれていた。また、親同士でお茶会をしてラインで悩みを共有しているそうである。

▼十一月のシンポジウムのテーマは「子育てにおける親子のしなやかさ(レジリエンス)」である。専門家ができることは、限られてくる。学生同士でも、親子でも、関係性を育むことがレジリエンスを育てることにつながるということを実感した愛媛大学とオーストラリアの体験であった。

 

(増田健太郎)
 
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