井筒俊彦英文著作翻訳コレクション 全7巻(全8冊)

井筒俊彦英文著作翻訳コレクション 全7巻(全8冊)

 

刊行にあたって

井筒俊彦(1914年―93年)の生誕100年を記念した『井筒俊彦全集』(全12巻・別巻、2013年-16年)の刊行によって、その思想の全体像が明らかになりつつあります。
しかし、井筒俊彦の生涯をひもとくと、1950年代半ばから約20年にわたって中近東、欧米で研究滞在し、日本語ではなく英文で多数の著作を発表した時代があります。この時期、井筒は日本語著作とは異なるアプローチでその思索を深化させ、構築していったのです。
本翻訳コレクションは、『井筒俊彦全集』と併せて、今日にいたるまで世界で読み続けられている井筒俊彦の英文代表著作を、本邦初訳で提供し、井筒哲学の全体像をより克明に明らかにするものです。

2017年4月

●『井筒俊彦全集』についてはこちらをご覧ください。


  

 

本コレクションの特色

井筒俊彦英文著作翻訳コレクション

思索の「中期」にあたる1950年代から80年代にかけて井筒俊彦が英文で著し、世界で高く評価された代表著作全七作を、本邦初訳で提供。
井筒哲学の中心テーマでありながら日本語では発表することがなかった唯一の「言語論」であり、幻の連続講義「言語学概論」を基にした英文処女著作『言語と呪術』を収録。
世界のイスラーム研究を牽引し、今なお各国語への翻訳が進む“イスラーム三部作”を初めてまとめて提示する。
名訳『老子道徳経』とイスラーム三部作の完成を経て、中国とイスラームの神秘主義を架橋する“最大の大著”『スーフィズムと老荘思想』待望の邦訳。
主著『意識と本質』への礎となり、海外のオーディエンス向けに東洋思想を平明に語った講演集『エラノス会議』を収録。
最新の研究に基づいた精緻な校訂作業を行ない、原文に忠実かつ読みやすい日本語に翻訳。
読者の理解を助ける解説、索引付き。


  

もう一人の井筒俊彦――英文著作をめぐって

安藤礼二
(文芸評論、多摩美術大学美術学部教授)

 井筒俊彦(1914―93年)は、1962年のマギル大学への赴任から、1979年のイラン革命による日本への帰還に至るまで、20年近くにわたり、活動の場を海外に移した。年齢でいうと40代の半ば過ぎから60代の半ばまでである。この間の主要著作は、そのほとんどが英文で著された。英文著作の井筒俊彦は、日本語著作の井筒俊彦とは大きく異なっている。
 なぜ、『コーラン』を選んだのか。井筒は英文著作で、明快に、こう答えてくれている。『コーラン』には、預言者を介して、人間の言葉でなく、神の言葉が記されていたからだ。預言者は、言葉の意味を変革できる特別な人間だった。なぜ、「東洋哲学」だったのか。エラノス会議に招かれ、そこで東洋をあらためて発見したからだ。エラノス会議で発表された井筒による英文の講演原稿(1967―82年)は、日本語による代表作『意識と本質』(1983年)の源泉となるとともに、それとは異なった東洋哲学へのもう一つのアプローチを示してくれている。そのはじまりにして帰結である、東洋の神秘主義思想たるタオイズムとイスラームの神秘主義思想たるスーフィズムを比較対照した英文による大著『スーフィズムと老荘思想』(初版1966―67年、改訂版1983年)がまとめられることになった。
 井筒がはじめて英文で書き上げた著作、『言語と呪術』(1956年)は、井筒が海外へ旅立つ前に完成された。そこでは、人類学と心理学が同時に論じられ、『鏡の国のアリス』の登場人物ハンプティ・ダンプティとアラビアの預言者ムハンマドが同時に論じられていた。「未開社会」を統治する呪術的な言語と、幼児が獲得する始原的な言語は同様の構造をもっている。そうした原初の言葉にして魔術の言葉を用いて、ハンプティ・ダンプティは虚構の世界に、ムハンマドは現実の世界に、意味の革命をもたらしたのだ。
 英文著作には、いまだ誰も見たことのない井筒俊彦が存在している。

  

 

推薦のことば 「世界に輝くイスラーム三部作」

小杉 泰
(イスラーム学・中東地域研究、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)

井筒俊彦が英文で著したイスラーム三部作は、西洋的なイスラーム学の限界を超えて、真にグローバルな学知の時代を先導した名作である。アラビア語聖典の言語宇宙を内側から照射した『クルアーンにおける神と人間』、イスラーム独自の論理を解明し、東洋学に意味論的な大転換をもたらした『イスラーム神学における信の構造』、認識論を偏重する近代哲学に対して、存在論哲学の深淵を知らしめた『存在の概念と実在』。これらの名著によって巨星イヅツは世界に輝いた。さらに『スーフィズムと老荘思想』では、東洋の叡智・神秘哲学の神髄を比較考察するという難業で世界を驚嘆させた。
欧米のみならずイスラーム世界でも井筒イスラーム学は深甚な影響を与え、その名声によって日本がどれだけ恩恵を受けたか計り知れない。
本コレクションは、英文ゆえに日本発の世界的名著が日本の読者に届きにくいという逆説を解消するものであり、その意義は限りなく大きい。多言語の典拠と深い思索による原文を精確に日本語にした秀逸な訳業も、功績大である。イスラームの理解が喫緊の課題となっている今、二一世紀の吉報と言うべきであり、是非一読をお薦めしたい。


  

推薦のことば 「井筒俊彦――彫琢としての翻訳」
中島隆博
(中国哲学・比較哲学、東京大学東洋文化研究所教授)

 井筒俊彦は慶應義塾大学言語文化研究所の紀要において、1966年にスーフィズムを、1967年に老荘思想を論じる巻を刊行し、その改訂版が後に『スーフィズムと老荘思想』として書籍化された。
 なぜこの二つの思想が同時に一冊にまとめ上げられなければならなかったのか。それは、井筒と深い親交のあった、イスラーム神秘思想研究者のアンリ・コルバンの「メタ歴史における対話」を、イスラームと中国思想の間で実践することによって、「永遠の哲学」に触れるためであった。
 そのためには、老荘思想をイスラーム神秘思想であるスーフィズムに匹敵する神秘思想として彫琢する必要があった。井筒が『老子道徳経』の翻訳に取り組んだのはそのためであった。『老子道徳経』の第一章の井筒の翻訳を見ると「玄」を「神秘 mystery」そして「妙」を「驚異 wonder」と訳している。
 井筒が尊敬していた鈴木大拙の神秘解釈が翻訳を通じて深められていったように、井筒の神秘哲学の深い機微を理解するためには、その彫琢としての翻訳の手つきこそが重要である。そのためにも、井筒俊彦英文著作翻訳コレクションの刊行は重要な貢献となる。

  

 

井筒俊彦英文著作翻訳コレクション 概要

装丁 中垣信夫+中垣 呉[中垣デザイン事務所]
仕様 A5判上製
頁数 各巻約272~500頁

  

第1回配本 『老子道徳経』

井筒俊彦英文著作翻訳コレクション

[底本] Lao-tzŭ:The Way and Its Virtue
古勝隆一(中国古典学)訳

 

テヘラン滞在中、中国古典『老子道徳経』に注釈を施し英訳した遺稿の邦訳。井筒は伝統的な解釈に向き合い原典に忠実に言葉を選びながら、語り手の老子を、永遠なる「道」と一体化した一個の人格「私」として捉え、そこに流れる一貫した強力な思想を読みとる。井筒独自の解釈をもとに、これまでにない『老子道徳経』を読むことができる一冊。老子論としても秀逸な序文つき。

●256頁 本体3,800円

目次・詳細はこちら


  

第2回配本 『クルアーンにおける神と人間――クルアーンの世界観の意味論』

井筒俊彦英文著作翻訳コレクション

[底本] God and Man in the Koran: Semantics of the Koranic Weltanschauung
鎌田 繁(イスラーム神秘思想・シーア研究)監訳
仁子寿晴(イスラーム哲学・中国イスラーム思想)訳

 

日本人として初めてクルアーンを原典アラビア語から翻訳した井筒のクルアーン論。その聖典の中に示される「世界観」や、「創造主たる神」と「被造物たる人間」の関係を中心に、意味論的方法を用いて分析する。井筒が愛した無道時代の詩も満載された、イスラーム文化やクルアーンを理解するための最良の手引きとなる世界的名著。

 

●2017年6月刊行予定
●384頁 本体予価5,800円

  

第3回配本 『存在の概念と実在』

[底本] The Concept and Reality of Existence
鎌田 繁(イスラーム神秘思想・シーア研究)監訳
仁子寿晴(イスラーム哲学・中国イスラーム思想)訳

 

1971年、マギル大学時代に発表したイスラーム哲学に関する講演論文集。イスラーム形而上学的思惟の構造、東西の実存主義、存在一性論、さらにイラン哲学最大の思想家サブザワーリーの思想構造を、文献学的精密さと比較哲学的な方法論によって明快に分析する名論文四本を収録。井筒イスラーム論の真骨頂とも称される一冊。

 

●2017年9月刊行予定

  

第4回配本 『言語と呪術――発話の呪術的機能の研究』

[底本] Language and Magic: Studies in the Magical Function of Speech
安藤礼二(文芸評論)訳

 

1956年に出版された英文処女著作。1949年から数年にわたり行われた伝説的な講義「言語学概論」唯一の成果であり、海外でも高い評価を得た。古今東西の古典に現れる言語の「呪術的」な機能を描き出し、それが今なお我々の中に息づくことを明らかにする。井筒言語哲学の出発点であり、後年の東洋哲学の構想へ向けて方法論的基盤となった名著。

 

●2017年12月刊行予定

  

第5回配本 『イスラーム神学における信の構造――イーマーンとイスラームの意味論的分析』

[底本] The Concept of Belief in Islamic Theology:A Semantic Analysis of Iman and Islam
鎌田 繁(イスラーム神秘思想・シーア研究)監訳
仁子寿晴(イスラーム哲学・中国イスラーム思想)訳
橋爪 烈(カリフ制度史・イスラーム政治思想史研究)訳

 

初期イスラームの数世紀という思想史を考える上で最も興味深い時代に照明を当て、イスラームにとって最重要の概念「信仰」がいかに生まれ、発展し、理論的に完成していくのか歴史学的、文献学的に分析する。イスラーム神学とイスラームの基礎を知るために最適な一冊。

 

●2018年1月刊行予定

  

第6回配本 『エラノス会議――東洋哲学講演集』

[底本] The Structure of Oriental Philosophy:Collected Papers of the Eranos Conference
澤井義次(宗教学・インド哲学)監訳
金子奈央(宗教学・東アジア仏教)訳
古勝隆一(中国古典学)訳
西村 玲(日本思想史・東アジア仏教思想)訳

 

思索の「中期」にあたる1967年から82年、井筒は日本と中国を中心とする東アジアの思想―禅、仏教、儒教、老荘思想など―を主題にエラノス会議で講演した。入念に準備された12回分の講演論文には、「東洋哲学」への一貫した思索が深まり、主著『意識と本質』へ成熟していく姿が見出せる。井筒読者必読の書。

 

●2018年2月刊行予定

  

第7回配本 『スーフィズムと老荘思想(上・下)』

[底本] Sufism and Taoism: A Comparative Study of Key Philosophical Concepts
仁子寿晴(イスラーム哲学・中国イスラーム思想)訳

 

『老子道徳経』を英訳し、意味論的方法を援用して大きな成果をあげたイスラーム三部作の発表後、井筒は、中国哲学最高峰の老荘とイスラーム神秘主義者イブン・アラビーの思想の底流に、共通した基本構造を見出し比較する、という壮大な試みに取り組んだ。長年の思索を新たな次元へと押し上げた井筒思想の堂々たる集大成。

 

●2018年9月刊行予定

  

 

井筒俊彦の生涯

井筒俊彦の生涯 1967年夏スイス・アスコナのエラノス会議にて

 1914年5月4日、東京市四谷区に生まれる。
慶應義塾大学で西脇順三郎に師事し、言語学者として出発。ギリシア神秘思想史、ロシア文学などを講義するかたわら、1941年『アラビア思想史』、49年『神秘哲学』、50 年『アラビア語入門』、51年『露西亜文学』など初期代表著作を刊行。
 1949年から開始された連続講義「言語学概論」をもとに56年Language and Magic(『言語と呪術』)を発表。同書によりローマン・ヤコブソンの推薦を得てロックフェラー財団フェローとして59 年から中近東・欧米での研究生活に入る。59 年The Structure of the Ethical Terms in the Koran(『意味の構造』として『井筒俊彦全集』第11巻に収録)を刊行。
 1960年代からマギル大学やイラン王立哲学アカデミーを中心に研究や講演、執筆活動に従事、64年God and Man in the Koran(『クルアーンにおける神と人間』)、65年 The Concept of Belief in Islamic Theology(『イスラーム神学における信の構造』)、66年-67年 A Comparative Study of the Key Philosophical Concepts in Sufism and Taoism(『スーフィズムと老荘思想』上下巻。83年に改訂版)、71年 The Concept and Reality of Existence(『存在の概念と実在』)など英文著作を精力的に発表する。
 1967年から82年までほぼ毎年エラノス会議で、老荘思想や禅、儒教など東洋哲学についての講演を行ない、計12回の講演は歿後 The Structure of Oriental Philosophy: Collected Papers of the Eranos Conference (『エラノス講演―東洋哲学講演集』)としてまとめられた。
 また、テヘランでは『老子道徳経』を中国語から英語に翻訳し刊行する予定だったが、1979年2月イラン革命激化のため日本に帰国。歿後Lao-tzǔ: The Way and Its Virtue として刊行された。
 帰国後は、長年の海外での研究成果による独自の哲学を日本語で著述することを決意、83年『意識と本質』、85年『意味の深みへ』、89年『コスモスとアンチコスモス』、91年『超越のことば』、93年絶筆となった『意識の形而上学』などの代表著作を発表した。
 1982年日本学士院会員、毎日出版文化賞、83年朝日賞受賞。93年鎌倉の自宅で死去。

 

●「井筒俊彦」に関する情報や、「井筒俊彦入門」はこちら
 当コーナーは、哲学者、言語学者、イスラーム学者として知られる「井筒俊彦」の入門ページです。
 若松英輔氏による多角的な視点から井筒俊彦に関するエッセイをお届けします。