プロローグ 復興から復興へ
「『災害復興法学』から『災害復興法学Ⅱ』へ」
本書『災害復興法学Ⅱ』は3部構成となっている。
第1部は、「防災を自分ごと」にするための防災教育の新たな手法を提示するものである。防災とは、災害直後に命や財産を守ることに尽きない。生き残った命を繋ぎ、再建の一歩を踏み出し、そして生活や事業を再建する見通しを立てることも「防災」に他ならないのではないだろうか。そのためには、「災害に遭うとはどういうことか」を確かなリアリティをもって認識する必要がある。そこで、まず第1章では、4万件を超える被災者無料法律相談データベース構築の集大成である「東日本大震災無料法律相談情報分析結果報告書(第5次分析)」(日弁連)をベースに、『災害復興法学』以上に視覚的に工夫をした「リーガル・ニーズ・マップ」を作成し、被災者の「リーガル・ニーズ」を空間的・立体的に描き出すことに挑戦した。そして、第2章において、真に防災を自分ごとにするための考え方を示し、防災教育や組織・企業における研修の具体的プログラム「防災を自分ごとにする研修プログラム」を提案する。災害直後の人命救助・行方不明者捜索の現場そのものに弁護士という職業が直接役立つ機会は少ないが、一方で、「72時間1分後」には弁護士の活動は不可欠となるといって良い。
そして、その活動は、被災者や被災企業が完全に再建・復興するまで決して終わることがない、長い戦いの始まりでもある。
第2部は、第1章から第9章までの各章において、被災者が抱えた課題、復興政策の軌跡、防災政策の課題を描き出す。防災政策上の関心事となる「住まい」「家族の生活」「地域と情報」という切り口でより災害復興政策を身近に感じられるよう工夫した。『災害復興法学』発刊から僅か4年の間にも、数多くの法改正が実現した。一方で、大きな地震や水害もまた数多く発生し、防災・復旧・復興・生活再建の各場面における新たな法制度上の課題が浮き彫りになった。本書でも『災害復興法学』同様、新しい法制度の解釈・解説にとどまることなく、その法制度が出来上がるきっかけと法制度の根拠となる立法事実の存在を詳らかにすることを目指す。提言から法改正までのプロセスに重点をおく「法改正ドキュメンタリー」を意識したものになっている。
「住まい」では、①復興事業加速化のために所有者不明土地の強制収用の規制緩和、②住宅ローンの支払不能(二重ローン)問題の克服と課題、③災害時の安否確認とマンション防災の課題を取り上げる。「家族」では、④災害関連死(災害弔慰金法)、⑤災害救助法、⑥被災者生活再建支援法という、災害法制の基本的な法律が抱える根本的な課題を浮き彫りにする。「地域と情報」では、⑦津波犠牲者訴訟にみる組織の安全配慮義務と事業継続計画(BCP)、⑧個人情報保護法制2000個問題、⑨災害時弁護士派遣(DLAT)など、将来の防災や危機管理政策の最先端の議論を提示する。いずれも、我々が知っておかなければならない、尊い犠牲と現状の困難の上にある教訓である。
第3部では、東日本大震災直後の4万件の無料法律相談情報以外のリーガル・ニーズの実態を解説する。第1章では、陸前高田仮設住宅巡回活動の成果をとりあげ、復興期における被災者のリーガル・ニーズを明確にする。第2章では、2016年4月におきた熊本地震から約1年間のうちに弁護士が実施した無料法律相談1万2,000件の分析結果を徹底的に解説する。東日本大震災との比較検証から、より精緻な「復興政策モデル」を提示する。第3章では、2014年8月におきた広島土砂災害において弁護士が実施した250件の無料法律相談情報の分析結果を解説する。局地的災害と広域災害を比較検証し、災害時のリーガル・ニーズの普遍性を発見する。
第3部第4章からエピローグにかけては「レジリエンス(強靱性)」をテーマに「防災」「減災」「危機管理」へのメッセージを強く込めている。防災と災害復興は、事前事後で分けられるものではなく常にサイクルを回すことで完成する。特に法制度の改正の繰り返しがこれに該当し、まさに「法的強靱性(リーガル・レジリエンス)」と呼ぶに相応しいと考えている。2015年4月のネパール大地震を受けて10月に実施したネパール・カトマンズ招聘講演にて伝えたかったメッセージを改めてここで記述する。
ところで、『災害復興法学』は、学生・研究者・行政機関の方々に加え、企業の経営者・人事総務・渉外・危機管理部門の方々、そして防災、法律、政策に興味を持った多くの皆さまのお手に取っていただいている。等身大の「生の声」を知って、その再建の道筋を示すことで企業内のあらゆる層において防災意識向上を目指すという、筆者の願いどおりのご活用をいただいていることに感謝したい。もちろん、国や自治体の方は、どのような部署であれ災害時には必ず対応が求められる以上、須らく手に取っていただきたいと願っている。また、高校生らから『災害復興法学』を読んだとのご一報をいただき、そのうち何名かは筆者の母校に進学するなど、思わぬところで未来への知恵の承継が実現したことには驚いている。本書が、災害復興政策の軌跡の記録であると同時に、それを教訓とした、防災・減災・危機管理政策の羅針盤ともなることを願ってやまない。
2018年6月11日
岡本 正
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復興の叡智をさらなる復興へ、そして防災・減災へ
『災害復興法学Ⅱ』(岡本 正 著)
企業の事業継続計画(BCP)や防災に関わる人材育成に不可欠な知識を満載。産学官の危機管理担当者必携。
東日本大震災4万件、広島土砂災害250件、そして熊本地震1万2千件の被災者無料法律相談を徹底解析。そこから導き出された法改正や新制度構築に向けた9つの「復興政策の軌跡」と「新たな課題」を描き出す。
防災とは、災害直後の命や財産を守ることに尽きない。助かった命を繋ぎ、希望の一歩を踏み出し、生活や事業を再建する知識の備えをすることも「防災」に他ならない。防災を「自分ごと」にする防災教育の新たなデザインを提示し、「リーガル・レジリエンス(法的強靭性)」の獲得を目指す。東日本大震災をはじめとする大災害からの復興政策の軌跡を防災、減災、危機管理に繋げることが『災害復興法学Ⅱ』のメッセージである。
慶應義塾大学法科大学院で誕生し、同大学法学部でも実践されている、屈指の人気講座「災害復興法学」及び「災害復興と法」の白熱講義の集大成。第1巻『災害復興法学』から4年の歳月を経てついにその続刊が登場。東日本大震災からの7年余りの法制度構築の歴史が前巻と本書に凝縮されている。
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災害後の法改正の軌跡をもとに新たな防災教育と公共政策学を提言!
『災害復興法学』(岡本 正 著)
東日本大震災直後から無料法律相談を通じて集められた4万人を超える被災者の「声」。
法律家は、地域や時間の経過によって変化する被災者のこの多様な「声」を集約・分析し、被災地の真のリーガル・ニーズに基づいた立法・制度構築を提言してきた。
本書は、この法律的課題の発見から政策提言までの軌跡を震災時の代表的ケースを用いて解説することで、巨大災害時の生活再建支援、被災地域の災害復旧・復興支援に必要となる公共政策上のノウハウ(防災リーガル・リテラシー)の伝承を目指すものである。
朝日新聞「ひと」欄でも取り上げられた著者が、震災の教訓と被災地の「声」を永く伝え、危機管理の新たなデザインを提唱する1冊。
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著者 岡本 正 (おかもと ただし)
弁護士・博士(法学)・マンション管理士・医療経営士・防災士。銀座パートナーズ法律事務所パートナー。
1979年生まれ。神奈川県鎌倉市出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2003年弁護士登録。内閣府行政刷新会議事務局上席政策調査員として出向中に東日本大震災が発生。日弁連災害対策本部室長を兼任し復興政策に関与。経験をもとに「災害復興法学」を創設。慶應義塾大学法科大学院、同大学院システムデザイン・マネジメント研究科、同法学部、青山学院大学大学院法学研究科ビジネス法務専攻等で講師を務める。中央大学大学院公共政策研究科客員教授や文部科学省原子力損害賠償紛争解決センター総括主任調査官も務めた。公益財団法人東日本大震災復興支援財団理事、総務省地域情報化アドバイザー、日本組織内弁護士協会副理事長等公職多数。第6回若者力大賞ユースリーダー支援賞個人部門受賞。2017年に新潟大学大学院現代社会文化研究科に提出した災害復興法学に関する論文により博士(法学)を取得。
●オフィシャルサイト:「弁護士 岡本正 Attorney at law」
●銀座パートナーズ法律事務所
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書店フェアのご案内
慶應義塾生協三田書籍部にて、「防災・災害復興」をテーマに選書フェアを開催中。
弊社新刊『災害復興法学Ⅱ』(岡本正著)も大きく展開していただいております。
ぜひお立ち寄りください!
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