『ブラックアース』著者、歴史家ティモシー・スナイダーが、現在、世界に台頭する圧政の指導者に正しく抗うための20の方法をガイドする。
『暴政』に関連した書店フェアなどがスタートしました!ぜひその様子もご覧ください。
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国末憲人氏「解説 歴史は現代に警告する」(一部抜粋)
米国が抱える危うさ
折しも、米国では大統領選の候補者選びが始まっていた。話題の中心は、放言や派手なパフォーマンスを繰り広げる共和党のドナルド・トランプだった。私がスナイダー教授に会ったのは、「いずれ失速する」との下馬評をはねのけて意外にもトランプが各州で勝利を重ね始めていた頃である。それでもまだ、彼が党の指名を受け、ましてや本選でヒラリー・クリントンを打ち破るなどと、多くは予想していなかった。
教授はこの時すでに、トランプに大いなる危惧を抱いていたようだ。彼はトランプを、フランスの右翼「国民戦線」党首マリーヌ・ルペンになぞらえて論じた。
「『ルペンやトランプがファシストになる』などと言いたいわけではありません。ナショナル・ポピュリズムとファシズムは別のものです。ただ、もしこの二人がフランスや米国の大統領になれば、ファシズムを想起させるような何かをするでしょう。それは、一つの兆候です。ファシズムが到来したことを示す印ではなく、ファシズムが到来し得ることを示す印なのです。彼らの次に、もう一つ別のステップがあるでしょう。ポピュリズムの先に、ファシズムを含むもっと悪いものが待っているかもしれません」。
マリーヌ・ルペンは翌年五月のフランス大統領選決選で敗れたものの、トランプがそれ以前に秋の選挙で勝利を収めて合衆国第四五代大統領に就任したのは、周知のとおりである。その後、スナイダー教授が抱いた懸念は現実のものとなりつつある。トランプはジャーナリズムや市民の批判を無視し、司法の独立性を軽視し、オバマ前政権が進めた地球温暖化対策を全面的に見直そうとする。怪しげな側近たちがうかがわせる不透明な関係は、極右や人種差別主義者から、ロシアのプーチン政権にまで及ぶ。本稿を執筆している二〇一七年六月初旬も、大統領選でのロシア介入疑惑を捜査していた連邦捜査局(FBI)の長官をトランプが解任し、捜査妨害の疑いを持たれて特別検察官が任命されるに至っている。
このような状況下、トランプ政権と向き合う米国市民、ひいてはポピュリズム・権威主義政権下に置かれた世界の人々のために書かれたのが、本書『暴政』である。
教育者としての問いかけ
本書は、トランプ型の暴政と闘う人々のためのマニュアルとして機能する。米国では、この小さな冊子を片手に街頭に繰り出す人もいるだろう。
ただ、本書は決して、饒舌な書物ではない。市民の怒りを喚起したり、闘争に駆り立てたりするパンフレットともほど遠い。本書は、スナイダー教授が「教育者」「研究者」「歴史家」としての立場から思索を重ね、その成果を社会に還元しようと試みた「警世の書」と位置づけられる。
著者の姿勢は、その「1 忖度による服従はするな」との呼びかけに、顕著に示されている。強制されたり命令されたりしての行動よりむしろ、市民の側が権力の意向を推し量り、自ら統制される立場に身を投げることの危険性を指摘する。ヒトラーが政権に近づいた際、新たな指導者に仕えようと多くの市民が自主的に奉仕した。その歴史に基づく教訓である。
求められるのは、服従の危険性を指摘する掛け声に従ってみんなで大声を上げることではない。権力に従って思考を放棄する行為が愚かなように、反権力の呼びかけに無批判に応じるのもまた浅はかだ。何より、市民一人ひとりが自ら考え、自らの意見を持ち、自ら判断を下さなければならぬ――。
スナイダー教授はイェール大学で教壇に立つ一方、欧米各地で講演活動を展開している。その語り口はあくまで平易で、明快である。命令調でも説教調でもなく、言葉と表現を選びつつ、研究の過程で出会った発見やエピソードを緩やかなテンポで紹介する。そこから生まれる課題を投げかけ、人々に思考と議論を促し、戻って来た質問に真摯に答える。
その口調に似て、『暴政』でも、彼は飾り気のない平明な言葉を、淡々と綴る。事実と考え方の枠組みを示すことで、判断と行動は読者に委ねる。若者たちに思考を促す教育者としての矜持と自制を感じさせる姿勢である。
本書の理解を深めるうえでポイントとなる20のレッスンのリード文を掲載しました。各見出しをクリックするとご覧いただけます。
――レシェク・コワコフスキ
ファシストは日々の暮らしのささやかな〈真実〉を軽蔑し、
新しい宗教のように響き渡る〈スローガン〉を愛し、
歴史やジャーナリズムよりも、つくられた〈神話〉を好んだ。
事実を放棄するのは、〈自由〉を放棄することと同じだ。
ファシズム前夜――
いまこそ、本を積み上げよう。〈真実〉があるのを信じよう。
歴史の教訓に学ぼう。
気鋭の歴史家ティモシー・スナイダーが、現在、世界に台頭する
圧政の指導者に正しく抗うための二〇の方法をガイドする。
解説 = 国末憲人
分野 | 人文書 |
---|---|
初版年月日 | 2017/07/25 |
本体価格 | 1,200円 |
判型等 | 全書版/並製 |
頁数 | 144頁 |
1969年オハイオ州生まれ。イェール大学歴史学部リチャード・レヴィン講座教授。オクスフォード大学でPh.D.を取得。専攻は中東欧史、ホロコースト史、近代ナショナリズム研究。
邦訳されている著書として『赤い大公――ハプスブルク家と東欧の20世紀』『ブラックアース――ホロコーストの歴史と警告』(共に慶應義塾大学出版会、2014年、2016年)、『ブラッドランド――ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』(筑摩書房、2015年)、インタビュアーを務めたトニー・ジャットの遺著『20世紀を考える』(みすず書房、2015年)がある。
中東欧史研究者としての評価は世界的に高く、著書の中で展開される論理は精緻かつ大胆。最新著作『暴政』も、2017年2月下旬にアメリカで刊行されて以降、各国で話題沸騰となり、大ベストセラーへの道程を着実に歩み続けている。
1950年横浜市生まれ。慶應義塾大学名誉教授。ティモシー・スナイダーの日本における紹介者として、本書のほかに『赤い大公――ハプスブルク家と東欧の20世紀』『ブラックアース――ホロコーストの歴史と警告』(慶應義塾大学出版会、2014年、2016年)を翻訳している。ほかにタナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』(同、2017年)、マーク・マゾワー『国連と帝国――世界秩序をめぐる攻防の20世紀』(同、2015年)、アダム・シュレイガー『日系人を救った政治家ラルフ・カー』(水声社、2013年)など多数の訳書がある。
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