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蒋介石と新生活運動
著者による紹介

『蒋介石と新生活運動』
『蒋介石と新生活運動』刊行にあたって

  
 

 

『蒋介石と新生活運動』
刊行にあたって

 




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  蒋介石は中国国民党と中華民国国民政府の主要な指導者の一人である。新生活運動は、蒋介石によって1934年2月19日に国民政府軍事委員会委員長南昌行営において発動されたものである。この運動は「礼・義・廉・恥」という伝統的な道徳を基本的な精神とし、国民生活の「軍事化・生産化・芸術化(合理化)」を中心目標とし、「整斎(整然さ)・清潔・簡単・素朴・迅速・確実」を実施原則とし、それを「食・衣・住・行」、つまり人々の日常生活に具現化させることによって、近代国家の達成をめざしたものである。

 新生活運動は、1934年2月に開始されてから49年1月蒋介石が下野するまで15年間にわたって行われた。中国近現代史上においてこれほど長く続けられた大衆動員運動は数少ない。その意味で、新生活運動は中華民国史だけでなく、蒋介石の政治生涯においても極めて重要な位置を占めるものであったといえる。しかし、今日に至っても、新生活運動に関する体系的な研究はいまだになされていない。本書の第一の目的は新生活運動の全体像を明らかにすることである。

 1980年代に入って、中国においては改革開放政策が本格化した。それに伴い、中華民国史に関する研究が徐々に行われるようになった。日本においても、山田辰雄氏をはじめとする中国近代史研究者は、「民国史観」を提起し、中華民国史研究の重要性を主張してきた。今日に至って、この分野における研究成果は比較的多く現れたが、蒋介石に関する研究はいまだに十分とはいえない。したがって、私は蒋介石に対する研究を深める必要があると認識した。本研究は、そのような背景の下で行われたものである。

 本研究の意義としては主に以下の3点が挙げられる。

 第1点は、従来の中華民国史研究の欠落部分を補うことである。中華民国史における新生活運動の位置づけを行うことは必要であり、また重要でもある。

 第2点は、蒋介石研究に新しい視角を提供することである。新生活運動発動の思想的背景を考察することによって、蒋介石の政治理念に影響を与えた要因が明らかにされるのである。また、運動の展開過程を分析することによって、この時期の国民党と国民政府における蒋介石の権力の実態を解明することができる。さらに、新生活運動の実施内容を分析することによって、蒋介石の国家建設理念を明らかにすることもできるのである。それらの作業は蒋介石の政治指導の特徴を解明することに大きく寄与するものである。

 第3点は、1930年代から40年代にかけての中国の政治変動、とりわけ国共関係の変容を理解するのに役立つことである。近代国家の達成という意味において、新生活運動の理念は共産党にとっても共有できるものであったといえる。共産党は今日においても精神文明建設運動に取り組んでいる。それは国民の道徳水準の向上、生活規範の改善などの側面においては、新生活運動と共通している。その意味で、近代以降中国が一貫して抱えてきた政治課題すなわち近代的国民国家の形成はいまだに未完成の段階にあるということができる。

 

著者プロフィール:段瑞聡(だん ずいそう)
慶應義塾大学商学部助教授 1967年生まれ。中国・内蒙古大学外国語学部卒業(88年)後、同学部助手に就任。90年財団法人大内山塾に日本語研修のため来日。慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程(94年)ならびに博士課程修了(99年)。杏林大学を経て、2001年より慶應義塾大学商学部専任講師、2003年より現職。博士(法学)。専攻は中国近現代政治史、現代中国政治、日中関係史。 主要著書:『国家のゆくえ』(共著、芦書房、2001年)、『利益誘導政治』(共著、芦書房、2004年)、『地球型社会の危機』(共著、芦書房、2005年)、『5分野から読み解く現代中国』(共著、晃洋書房、2005年)、『グローバリゼーションの危機管理論』(共著、芦書房、2006年)、『中国の統治能力』(共著、慶應義塾大学出版会、2006年)等。
※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

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