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蒋介石と新生活運動

著者による特別寄稿

『変革の時代における理論刑法学』

特別寄稿

 
 

この本は、私がこの10年ほどの間に書いた、刑法理論の基礎的諸問題に関する論文14編(及び解題1編)を収録した論文集である。収められた論文は、4つにグループ分けすることができる。すなわち、最近の刑事立法をテーマとするもの、学説の役割及び学説と実務の関係について論じるもの、違法論と責任論の基本問題に関わるもの、量刑をめぐる最近の諸問題を取り上げるもの、である。いずれも「旬のテーマ」ではあるが、しかし大きくて困難な問題ばかりである。「非力を省みず巨人に対し格闘を挑もうとする無謀な企て」と人は評するかも知れない。

現在、刑法は、立法においても、その解釈においても、変革の時代と呼ぶにふさわしい激動期を迎えている。本書の諸論文は、社会を意識し、社会の変化への対応を心がけつつも(刑法学は概念操作学であってはならない!)、しかし同時に、放棄することの許されない、在来の刑法学の基本思想・諸原則・理論構造を確認しようとする意図で書かれた。それは、伝統的な理論刑法学の構成部分の中で、社会構造と社会意識の変化に応じて変わっていくべきものと、それでも動かしてはならないものとを選り分けようとする「手探りの試み」と称することも許されよう。

私は、大学院時代には、刑罰と責任の関係、とりわけ量刑理論に関心を持ち、主としてドイツの議論を参考にして論文を書いた。助手となってからは、「解釈論のメインテーマ」に取組むべきだという恩師中谷瑾子先生のご指示に従い、当時もっとも盛んに議論されていた錯誤論(とりわけ方法の錯誤)について論文を書いた。しかし、それ以降は、刑法学の特定の問題をテーマとして研究を深めるというのではなく、理論刑法学の論点全般について好き嫌いを言わずに論文を書くようにした。今から12年前に、それらの論文を集めた『犯罪論の現在と目的的行為論』(成文堂、1995年)を出版した。それが第1論文集であるとすれば、本書は第2論文集である。この2つの論文集の間に、多少でも進歩の形跡が見られるとすれば、私にとり何よりもうれしいことである。

そういえば、私のドイツでの恩師の、そのまた恩師である、有名なハンス・ヴェルツェル(Hans Welzel, 1904-1977)には、「刑法学における動かないものと変化するものについて」(1965年)という名論文がある。本書のモチーフもまた、「変わるべきものと動かしてはならないもの」である。いま、私もヴェルツェルの学統に連なる者であることを強く意識している。

著者プロフィール:井田良(いだ まこと)

慶應義塾大学大学院法務研究科教授, 日本学術会議会員(第20 期)
1956年 東京に生まれる
1978年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
1989年 法学博士(ドイツ・ケルン大学)
2006年 フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞(Philipp Franz von Siebold-Preis)受賞
これまで、日本刑法学会理事、法制審議会刑事法部会委員、司法試験考査委員、文化庁宗教法人審議会委員などを務める。

 

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