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巻頭随筆

子どもたちが行きたくなる学校になるには    増田健太郎

 

 「一年生になったら、友達百人できるかな」は、学校に行くことを楽しみにしている子どもの心を表現している象徴的なフレーズです。日本の学校はいろいろな取組みや行事を行っていることが時々報道されますが、どうしても「事件性」のあるニュースのほうが人々に大きな印象を与えます。テレビ・新聞やネットでは、不登校・いじめ、昨今では、小学生の校内暴力の発生件数が戦後最高である等の報道がされたため、学校にはネガティブなイメージがつきまとっているように思います。また、誰しも学校に行った経験から、学校観や教育論を持っています。学校に対するイメージは十人十色で、「学校は厳しかったけれど、あの先生はとても愛情があった」「昔は愛の鞭で、体罰も当たり前だったけれど、今の先生は大変だな」等、誰しもが教育論を語り合うことができます。さて、今の学校を子どもたちは、どう思っているのでしょうか。調査や学校訪問からは、学校文化の違いもありますが、学級間格差が多いように思います。

 2015年、私立小学校の勉強報告会のコメンテーターとして、小学生の「勉強報告会」の見学をしました。二年生は、「音」を3カ月間拾い集め、その音をカタカナで情感をこめて発表していました。四年生は、「恐竜」のことをずっと調べての報告でした。五年生は、「角度の研究」で、角度とは何かから始まり、紙を折り、三角形の内角の和から一億角形の内角の和まで、計算していました。ペットボトルロケットの発射角度は何度であれば、一番遠くまで飛ぶのかを実証していました。角度の研究を3カ月間することで、算数が嫌いだった子どもたちが算数に関心を持ち出したこと、その後の先生方との研修会では、グループ活動を通してコミュニケーション能力が高まり、子どもたちの仲間関係も深まった、という報告でした。一つのことを追究していけば、他の能力も高めることができるのです。その根底にあるのは、人間が誰しも持っている「好奇心」をどうやって高めるかだろうと思います。大学で教えていても、一方通行の講義型では、学生からの授業評価は低くなります。課題を一緒に考える双方向のコミュニケーションを大切にした授業では、大学生も自発的に意見を発表し、論議し、周りの学生と一緒に学ぶ関係になり、学生の意欲も教室の雰囲気も変わります。

 学級崩壊・いじめは、子どもたちの安全を脅かします。児童生徒の集団としてのパワーと教師とのパワーバランスで、学級集団が落ち着いたり、子どもたちが持っている潜在的能力が発揮されたりします。教師集団の協働性によって、学級満足感が高まり、コミュニケーション能力も高まるものと思われます。担任ひとりの力では、学級経営は難しい時代になってきています。先生たちが持っている個性と力量を協働して、子どもたちと向き合う時代になってきています。欧米の学校教育と比較して、日本は規則や規律によって「型に合わせる文化」「叱る文化」が根底にあるように思えます。子どもたちや先生の興味関心や好奇心をベースにしたカリキュラムマネジメントを行っていけば、学習意欲が喚起されるとともに、「行きたくなる学校」になるのではないかと考えます。


 
執筆者紹介
増田健太郎(ますだ・けんたろう)

九州大学大学院人間環境学研究院教授。臨床心理士。教育学博士。専門は臨床心理学、教育経営学。九州大学大学院人間環境学研究科博士課程単位取得満期退学。自由学園アドバイザー、NPO法人九州大学こころとそだちの相談室室長。著書に『不登校の子どもに何が必要か』(編著、慶應義塾大学出版会、2016年)、『教師・SCのための心理教育素材集』(監修、遠見書房、2015年)など。

 
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