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巻頭随筆

スクールカウンセラーの視点     岡本淳子

 

「黒船到来」にたとえられた1995年度の公立学校へのスクールカウンセラー(以下、SC)導入から、18年が経ちました。国による研究委託の事業として開始された事業でしたが、現在では約2万校以上にも配置が及んで、SCは日本の学校にも定着してきました。開拓的な事業でもあり、SC自身に活動への研究的な姿勢があったことが力になっていると考えられますが、配置された学校の先生方や子どもたち、保護者の方々にも支えられて展開してきていることが見逃せません。

 振り返ると、2000年前後から現在までの10年余りの間に問題行動の顕著な上昇や、法の改正などで学校組織や運営が変更になる事態が複数生じています。

 子どもたちの問題では、不登校や暴力、いじめ自殺などの増加が顕著でした。保護者との関わりでは、虐待や離婚家庭の子どもをめぐるトラブル、学校への理不尽な要求などが大きな課題になりました。特別支援教育の本格実施や、学校統合、小中連携教育、中等教育学校設置も積極的に実施されています。学級崩壊が起こるなかで、教師たちのメンタルヘルスの課題はこの10年間で3倍になっています。学校組織上の変化としては、副校長や主幹教諭等が新たに設置され、学校によっては民間人から管理職が任用されています。また、非常勤ながらSC等の専門職が、多職種にわたって配置され子どもたちに関わっています。2013年に制定されたいじめ防止対策推進法では、複数の教職員と心理や福祉等の専門家によるいじめ防止等の対策のための組織を学校に置くものとされ、学校組織の運営にも変化が起こることが予想されます。

 学校にこのような多様な動きが同時に発生することはよくあることですが、そんなとき誰でもが大なり小なり葛藤やストレスを抱えていることを念頭におきたいものです。目の前で起こっている事態について教師が指導により解決を重視するのに対して、SCは子どもたちや教師を見ていて、「そこで何が起こっているのか」「何が滞っているのか」、全体を俯瞰しながら「今」をとらえて支援を送るという専門性があります。例えば暴力問題一つを取り上げても、その根は深く、いじめや親からの虐待、あるいは教師同士の連携の齟齬から発生している問題が隠されていて、見えないところで相互に関連し合って循環し、二次的三次的に問題がエスカレートしているのかもしれません。

 SCが学校組織の一歩外にあって、専門性による関わりを行うという外部性が尊重されていますが、それは俯瞰の姿勢に通じるものです。専門性の基本としては、対象は個人でも集団でも同様に、SCが関わって言葉を交わす中で、主体となっている子ども自身や先生自身が、自分の気持ちに気づき、自分の考えを作り上げていかれるような力を育てる面接力が中心になると考えています。教育と心理臨床の関わりがほどよく補完し合えたとき、SCの機能が誰にとっても有効に働くと考えられます。

 約20年の経過を経てSCの活動は緊急支援や予防教育にも大きく広がり、状況に応じた臨機応変な活動を展開してきています。一人職場での業務においては、実践を振り返り、支え合う仲間を持てるような研修機会が、また、今、養成課程にある大学院生については臨床実践という広い視点から実習に始まる臨床教育を充実させることが重要と考えています。


 
執筆者紹介
岡本淳子(おかもと・じゅんこ)

立正大学心理学部・大学院心理学研究科教授。臨床心理士。専門は臨床心理学(教育相談臨床面接)。早稲田大学第一文学部卒業。東京都立教育研究所教育研究職、日本女子大学非常勤講師を経て現職。著書に『暴力と思春期』(共著、岩崎学術出版社、2001年)、『教育心理臨床パラダイム(現代のエスプリ別冊)』(共著、至文堂、2008年)など。

 
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