2011年3月11日の東日本大震災はこれまでに経験したことがない大規模な天災であった。しかし、その後に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射線被ばくと、大震災や放射線被ばくへの対応のまずさは人災である。国は様々な施策を講じている。学校が被災者の避難所になったり、校庭に仮設住宅が建てられている。しかし、これは子どもを優先した対策ではない。
日本小児科学会は被災地の基幹病院に会員小児科医を派遣し、小児診療の支援を3月末より開始した。宮城県への支援は5月上旬で終了し、福島県と岩手県への支援は10月現在も進行中である。福島県への支援は10月末まで、岩手県への支援は1年間を予定している。また、被災により治療を行えない患児の受け入れ機関リストを小児科学会ホームページに掲載した。
被災地と他県に避難した子どもの栄養、乳幼児検診、予防接種などが震災直後から問題となった。日本小児科学会は災害時の乳児栄養や被災地の避難所等で生活する赤ちゃんのためのQ&Aをホームページに掲載した。また、他県に避難した子どもも定期予防接種と乳幼児検診を公費で受けられる、との厚生労働省の通達を小児科学会会員に周知した。1カ月健診を受けられない子どものために、厚生労働省を通じてビタミンK2シロップ内服状況を把握し、必要に応じて治療するよう県に対応を依頼した。
東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射線被ばくによる子どもの健康被害が危惧される。これまで実施された放射線被ばく量の測定結果から、日本のほとんどの地域の子どもにとって甲状腺ブロックは必要ない、とする日本核医学会の見解を3月末にホームページに掲載した。さらに、食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な指標値100ベクレル/キログラムを超過する濃度の放射性ヨウ素が測定された水道水の摂取について共同見解を公表した。また、放射線被ばくと母乳栄養について正しく理解するための資料をホームページに掲載した。子どもの放射線被ばくを減らすため、汚染された土壌の撤去などの取り組みが必要である。日本小児科学会は、日本医師会、日本小児科医会、日本小児保健協会、日本保育園保健協議会と連名で、子どもの安全を守るために放射線被ばく線量を減らす対策を実施するよう文部科学省に要請した。さらに、保護者が放射線についての正しい理解を深めるため、いわき市にて放射線と子どもの発育・発達講演会を日本小児救急医学会と共催した。今後放射線被ばくがわが国の子どもの健康にどのような影響を与えるかについて長期的な調査が必要である。また、国は放射線被ばくを減らすための環境整備を行うとともに、わが国の子どもが一人たりとも今回の被ばくによりがん死とならない体制を構築しなくてはならない。
被災した子どもは外見上元気に見えても、こころに深い傷を負っている。日本小児科学会は、5月に宮城子ども病院にて、医療関係者に対して震災後の子どものこころのケアについて講演した。さらに、子どものこころと体のケアをし、それに必要なスタッフを育成する機能を持つ「子どものこころと体の支援センター(仮称)」を被災地に設立することを厚生労働省に提案した。
わが国の子どものこころと体の健やかな育成を何よりも優先した施策が行われるよう、子どもに関係した仕事を担う者は関係機関と協力して今後努力しなくてはならない。
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