現代日本の社会環境は、国際化、情報化、競争化、価値観の多様化が一段と進んでいます。そのような中で、青少年のいろいろな問題行動が生じています。不登校は年々増加し、キレる、いじめ、家庭内暴力、非行、性の問題、自殺などの問題行動も増加しています。さらに、拒食症、過食症などの摂食障害や、不定愁訴を有する心身症も急激に増えてきています。このような状況に対して、少人数学級、個別指導、土日休日、スクールカウンセラーの配置などの対策が行われていますが、いろいろな統計を見る限り、状況の改善はあまり見られていないようです。このような問題行動の原因として、今回のテーマである忍耐力が不足していることが一因と思われます。
「三つ子の魂百まで」ということわざがあります。人間を含めた多くの生物は、生まれ育った環境によって、その後の性格や考えなどが大きく左右されます。ことわざの意味は、“幼少時に刷り込まれた性格や考え、習慣は、高齢になるまで持続される”ということです。
犬を飼ったことのある人は体験されると思いますが、犬をしつける場合、子犬の時代にきちんとしつけを教えることが重要です。成犬になってからでは、なかなかしつけを覚えてくれません。
私たちが行った実験を2つ紹介します。ひとつは攻撃行動に関係したものです。生後早期の雄ネズミを用いて、ひとつのグループは、生後5日目から22日までの18日間、1日1時間母親から引き離して、強制的に孤独な環境に置きました。他のグループは母親と一緒に生活をさせました。18日間の実験が終わってから、経時的に行動の観察を続けました。その結果、母子分離したネズミは、母子一緒だったネズミに比べ思春期頃から極めて攻撃的な行動になっていました。
次に、近年アレルギー疾患が増加している原因のひとつに、あまりにクリーンな環境が考えられています。乳幼児期の抗生物質投与により成長後のアレルギー発症のリスクが増加するという、注目すべき報告がなされています。抗生物質によって正常な常在細菌叢(さいきんそう)が破壊され、粘膜免疫機構の発達が妨げられるからではないかと推察されています。ネズミを用いた私たちの動物実験でも、離乳直後に抗生物質(カナマイシン)を1週間投与することによって一過性に腸内細菌叢を除去した場合や腸内細菌叢がない無菌ネズミの場合は、成長後にアレルギーを起こしやすい状態になっていました。さらに、外来のストレスに対する副腎皮質ホルモンの反応が強く見られました。
このように乳幼児期の環境因子は生物学的にも大きな影響を与え、成長後の心身の状態や行動に影響を及ぼすと考えられます。
ヒトの場合は、実験的に確かめることはなかなかできません。しかし、最近よくニュースに登場する、いわゆる“キレる少年や少女”は、幼少時の環境や生活習慣が影響しているのだと思われます。また、摂食障害で苦しむ若い人を見かけますが、これも子どものころの食習慣が禍しているのではないかと思います。
食事、睡眠、排便、排尿、運動などの日常生活習慣を幼少時期にきちんとしておかないと、あとで修正することは大変な労力がかかりますし、本人が最も困ります。忍耐力も同じと考えられ、幼少時期の日常生活習慣のしつけが重要と思われます。まさに予防に勝る薬なしです。
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