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編集後記  第64巻10号 2016年10月
 

▼現代における社会の科学技術は加速度的に発達している。日本が史上最高のメダルを41個獲得して盛り上がったリオデジャネイロ・オリンピックでは地球の裏側でのオリンピックにもかかわらず、リアルタイムで日本国民に感動を呼び起こした。なかでも体操の男子の団体金メダル、競泳陣の活躍や男女の卓球や女子バドミントンの高松ペアの激闘、陸上400mリレーなど、「チーム力」の大きさを感じさせられた。
 また、日本人アスリートのメンタリティが変わったことも印象的である。体操などは個人競技にもかかわらず、選手同士の連帯感が個人競技の成果に大きな影響を与えていた。400mリレーにおいては、各選手の100mの合計タイムでは他国に比べて劣っていたが、バトンパスの妙で銀メダルに輝いた。バドミントン松友選手の「5点差で負けている時は楽しかった」というコメントには、アスリートのメンタリティが変わったことを認識させられた。プレッシャーに押しつぶされるのではなく、「プレッシャーを楽しむ」ことができたことが大逆転での金メダル獲得の大きな要因である。そこには、押しつけられてやってきたという気持ちは少しも感じられなかった。

▼さて、10月号の特集は「アクティブ・ラーニング」と「学校行事」である。教育関係の雑誌や新聞を読むと、アクティブ・ラーニングの特集が花盛りである。しかし、優れた授業や学級経営の実践を行ってきた教師にとっては、「何を今さら」という思いであろう。知識注入型の教育では、児童生徒・学生に自ら学ぶ力をつけることができないことを体験的に理解し、自ら学ぶ主体性を発揮させるためには、課題探求・課題解決を一人で考え、それをグループで話し合い、プレゼンテーションをする授業を行ってきたのである。その教育実践を理論的に裏付けたものに過ぎないというのが実感であろう。科学の発達や情報化時代において、必要とする知識量が無尽蔵になり、限られた時間の中で教え込むことは不可能であることを知っていたからである。「総合的な学習」が導入され、「生きる力」が重要視されていたときに、すでにアクティブ・ラーニングは実践されていた。

▼入学式・卒業式、自然教室・修学旅行、運動会・学習発表会・合唱コンクールなどの学校行事は、主体性を身につけさせることができる日本独特の教育である。そこには、教育効果がある一方で不登校のきっかけや発達障害児童生徒には過度なストレスを与えたり、学校事故のリスクも伴う。プラスとマイナスを今一度、俯瞰的に見直す時期であろう。
 今、教育現場では「主体性を育てる」ことと相反するようにみえる「学力テスト」の問題が存在する。学力テストの成果をあげるために教え込み、過去問を何度も行う「悲しい努力」を行っている学校も存在する。「主体性を育てる」「成長すること」とは何かを考えるとき、リオデジャネイロ・オリンピックにおける日本選手の姿から学ぶことは大きい。

 

(増田健太郎)
 
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