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編集後記  第61巻4号 2013年4月
 

▼教員養成課程の改革は、日本だけでなく、世界各国でも現在進行形で議論され取り組まれている重要な課題です。今月号の特集として取り上げた教員養成課程6年制の問題について、とくに先進国においては、6年制で教員養成が行われているという指摘があります。例えば近年、PISA調査の結果によってクローズアップされてきたフィンランドにおける教員養成も6年制であることが喧伝されてきました。

▼日本でもこれまでに、教員養成の大学院大学としてまずいわゆる新構想大学と呼ばれる上越教育大学、兵庫教育大学、鳴門教育大学が、そして近年専門職大学院として教職大学院が設立されましたが、修士課程で学んで教員になる、あるいは修士課程で教員が学ぶというスタイルは十分に定着していません。これは、教職の世界では、現場での経験が重要だと考えられてきており、むしろ早く現場に出たほうが教師として成長すると考えられているのではないでしょうか。それは裏返せば、教員養成課程で学ぶ学修内容が残念ながら現場教育に十分に寄与するものとはとらえられてこなかったということでもあるでしょう。

▼私は、前任の大学で、大学院修士課程における高度な教員養成の研究に携わりました。この研究は、教職大学院の制度設計のために(だと思いますが)、文部科学省から指定を受けたいくつかの大学が取り組んだものです。前任校では、理論と実践の往還をキーワードにして、具体的には、学部から大学院に進学してきたストレートマスターの学生と、現職教員の大学院生がチームを組んで、学校現場の授業や研修にかかわり、そこでとらえた問題について大学で省察を行うというものでした。こういった取り組みを通して、高度な教員養成の「高度な」という意味をめぐっていくつかの議論がありました。それは、教員の資質能力、専門性が何かを考えることであり、またそれをどう評価するかという問題でもありました。

▼一つ面白かった議論として、コックとしての教師か、シェフとしての教師か、というものがありました。前者は、コックが決められた素材でメニューに掲載されている料理を、量も味も大きく外れることなく一定につくるように、教師が学習指導要領に示された教えなければならないことを的確に教材にして確実に教えていくというもの。それに対して後者は、シェフが料理の素材から自分で準備し、創造性を発揮してオーダーメードの料理をつくりあげるように、教師が自分で教えたいことについて、自ら教材を研究開発し教育できるというものでした。

▼今後6年制の教員養成に向けてさらに議論が深まっていくと思いますが、制度ならびにカリキュラムの議論とともに、これからの教員養成課程教育を実際に担う大学・大学院の担当者、それを支援することになる教育委員会の職員や学校現場の先生方などの協力者が、どのような教員をどのように育てるのか、これからの教員養成の目的と具体的な方法をどう共有していくかが重要な鍵になると思います。

 

(田上 哲)
 
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