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編集後記  第60巻11号 2012年11月
 

▼特集の執筆者の税田慶昭氏、実藤和佳子氏と私には、あるつながりがある。大神英裕氏(古賀市教育委員長・九州大学名誉教授)を大学院時代の指導教官とする点だ。職場や年齢・世代は異なるのだが、この夏も3日間、「糸島プロジェクト」の「移行支援キャンプ」で一緒に活動した。このプロジェクトについて、専門家や研究者には興味を持っている方が多い。平成11年頃より、大神氏を代表とする九州大学研究室と福岡県糸島地区(旧前原市)によって始められ、すでに約14年が経過した。発達障害のある子どもとその保護者、保健師、保育士、教師、専門家(医師を含む)、行政担当者による事業である。

▼糸島地区(人口約10万)は福岡県でありながら、東の福岡市(人口約150万)、西の佐賀県に挟まれるように位置し、障害のある子どもの療育など、県のさまざまな行政サービスが届きにくい状況にあった。我が子に障害があることが分かれば、福岡市に転居することを検討する家庭が多いのが実情であった。このようななかで、保健師を中心に「糸島に生まれた子どもは糸島で適切に支援していこう」と動き出したのがこのプロジェクトだった。乳幼児健診システムを再構築すると共に、生後8カ月からの縦断的出生児全数調査で、発達障害の初期兆候を明らかとするシステムが導入された。

▼さらに乳幼児健診、発達支援相談、就学時相談、巡回相談のシステムが整備されてきた。そして発達障害の子どもを対象に、保護者や保健師、就学前の担当者、学校関係者、専門家で、子どもの「個別の療育・指導計画」を作成する療育キャンプが平成18年から開催されている。このキャンプについては、年長児を対象に「就学移行支援計画」を作成する取組み、さらに中等教育にむけての「進学移行支援計画」の作成等が課題となるように変化してきている。

▼私自身、このプロジェクトに本格的に参加し始めたのは平成18年からであるが、印象深い点が二つある。一つは、地域の教師や保育士などの関係者が専門的な力をつけてきた点である。九州大学関係者が担っていた助言的役割を徐々に糸島地区の教師や他の専門家が担うようになってきた。そしてもう一つは、関係者の広がりである。保育士や幼稚園の教師の参加があれば……、就学する可能性が高い小学校の教師の参加があれば……、と願っていた時期があった。事例コンサルテーションの実施などのさまざまな工夫で、それらが実現している。今の願いは「中学校の教師の参加があれば……」である。発達障害の子どもを中心に、関係者がつながり、力を合わせて、生涯支援をめざす取組みがますます充実してきている。

▼このプロジェクトについて詳細を知りたい方は、大神英裕著「連携して広げる早期発見・発達支援の輪」(『教育と医学』2011年1月号)、さらに詳しくは、同氏著『発達障害の早期支援』(ミネルヴァ書房、2008年)をおすすめする。

 

(徳永 豊)
 
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