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編集後記  第60巻08号 2012年8月
 

▼WHOは採用時の判断や成果を出せる人材開発に役立てることを目的として、保健医療従事者のグローバルコンピテンシーモデルを提示している。
 この中では、コア・コンピテンシー、マネジメント・コンピテンシー、リーダーシップ・コンピテンシーの3つのカテゴリー領域とその中に含まれる13項目が提示されているが、このうちコア・コンピテンシー領域に含まれる7つの項目の1つとして、「統合とチームワークの育成」が述べられている。すなわち、保健医療従事者にとって、今回のテーマである「チームワーク」は、専門職としての基本の能力とされているのである。

▼筆者は、地域看護学を専門としているが、筆者の所属する看護分野の学生をみても、チームワークが得意かというと決してそうは思えない。そのため、筆者らは地域看護学実習の目標のひとつとして、チームの一員として自分の役割を見出しながら動くことができることを項目に入れ、学生に意識づけさせているのが実情である。

▼とはいえ、多くの学生にとってチームで動かなければいけない実習は「めんどくさい」ものらしい。実習では、住民に向けた健康教育をチームで1つ行うことを課しているが、そのシナリオの準備では、「効率的」かつ「公平な」分担が行われる。学生にとっての公平は書いた量であるため、導入部分、展開部分、まとめ部分の量が公平なシナリオがどうなるかはご想像いただきたい。しかし、それも経験である。
 ここで問題と思うのは、自分たちのシナリオの不十分さに気づいている場合でも、自分たちで話し合って修正をかけることをしない場合がままあることである。いくつかの理由があるように感じているが、理由の一つは、修正が必要な部分を指摘すると、それが非難ととらえられるのでは、という怖れのようである。そのため、「うるさい先生が修正しろと言ったから」という理由がつくのを待つ図式があるように思う。

▼共通の外敵をつくることは、チームの凝集性を高めるための常套手段の一つとも思うが、健康教育のシナリオの修正が教員を外敵にする方法でしかできないのは悲しい。
 冒頭に書いたコア・コンピテンシーには、チームワーク以外に以下のようなものが含まれている。「信頼でき、効果的なコミュニケーション」「自己認識・自己管理」「個人・文化の相違の尊重・奨励」である。チームワークのためにはこれらの能力が同時に育っていることが必要と感じる。

▼チームで組めない例を書いたが、もちろん高いチームワークでこちらが驚く成果を出してくる場合もある。その時に見せる自信や互いへの信頼に満ちたまなざしは本当に美しいと思う。そのような本人もチーム員も成長につながるチームワーク力を育むには、大人も分野を超えてチームで取り組んでゆかねば、と自戒を含めて考えている。

 

 

(鳩野洋子)
 
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