Browse
立ち読み  
編集後記  第60巻05号 2012年5月
 

▼4月に入学・進級した子どもたち、あるいは初めての環境で働きだした大人も多いことでしょう。そろそろ新しい環境に馴染んできたころでしょうか。それともまだ不安を抱えながら、なんとか毎日を過ごしているかもしれません。今年3月高校卒業を迎えた長男の学校では、中学の修学旅行で18歳になった自分宛ての手紙を書いており、卒業式の後それが全員にわたされました。長男の手紙には、中学入学後、追いつけない勉強への不安、新しい友達関係への不安などが綴られ、18歳の自分は楽しく頑張っていますか、とありました。幸い息子は、中高6年間で多くの仲間に恵まれ、卒業式当日は名残惜しさでいっぱいでした。中学入学当時、毎日登校する子どもに、母親の私はうるさく小言ばかりだったような気がします。中学入学後の子どもの不安にどれだけ気づけていただろうかと、申し訳ない気持ちで切なくなりました。

▼今回のテーマの「子どもの問題行動にどう対応するか」にも、この子どもの不安は大きく関係しているかもしれません。私たちの病院の外来(小児科)での相談は、学校での攻撃的な言動、学級崩壊の中心的存在(実際は、ほとんどが違う)、不快なだらしない行動など様々です。問題行動そのものではなく、その子どもが“問題のある子ども”としてとらえられています。毎日向き合う母親や担任の先生にとっては、疲労困憊の原因になり、大人といえども冷静に向き合えなくなり関係は悪化し、さらに問題行動に拍車がかかる、といった悪循環が生まれます。毎日のようにある電話や連絡に母親も担任も疲れ、家庭と学校の関係も悪くなり、そのことで子どもが虐待を受けてしまうこともあります。

▼なぜ、そのような行動をその子はとってしまうのか、その背景に気づいてあげられるかどうかが大事です。病院を受診する子どもたちは、とても傷つき疲れ切っています。それにもかかわらず、とっても過敏で少しの刺激で興奮してしまい、そういった時に諭して振り返りをさせようとしても、困難なことがしばしばあります。なぜなら子どもは、その状況に身を置くことがつらくなり、解離状態になっているからです。こういった悪循環を断ち切るためには、直接子どもに関わる担任の力不足ではないことに気づき、早期に学校全体あるいは専門機関と一緒に対応を考えていくことに躊躇しないこと、だと思います。

▼周囲からすると迷惑千万の問題行動は、子どもからのSOSであること、何に困っているのかを一緒に考え、「君を守るよ」というメッセージを込めて対応したいものです。むしろ問題行動を出してくれるほうが、何かに困っていることに早く気づくことができます。一見、何も問題がなくみえる子どもの中にも、不安や心配を抱えている子がいるかもしれません。声なき子どもの声に耳を傾けることも忘れてはならないことです。新しい環境での不安を少しでも和らげて、子どもと一緒に大人もまだまだ成長していきたいものです。

 

 

(安元佐和)
 
ページトップへ
Copyright © 2004-2012 Keio University Press Inc. All rights reserved.