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立ち読み  
編集後記  第60巻02号 2012年2月
 

▼ある大学の教職課程での学生と「教師にとって、必要な力とは何か」について話し合った。学生いわく、「教える力」「説明する力」「子どもに愛情を注ぐ力」「保護者や地域と協力する力」「先生たちとのチームワーク」「精神力」などなど、教師にとって必要な力が次々と出されていった。そしてしばらく間をおいた後、ある女子学生が言った。「魅力です」と。この一言で、今まで真顔で話し合ってきた学生たちの表情が穏やかになり、私も「魅力」という言葉が、心に落ちた。それ以来教員に、「学校に必要な力は魅力です」というフレーズを使うようになった。魅力とは大辞泉によると「人の心をひきつけて夢中にさせる力」とある。集中ではなく、夢中である。

▼今回の第一特集のテーマは「子どもをひきつける学校づくり」である。今の日本の学校に、教員に、どれだけ魅力があるだろうか。子どもたちがわくわくする授業、行きたいと思う学校・学級がどれくらいあるだろうか。魅力的な先生がどれだけいるだろうか。教育問題はどちらかというと、学級崩壊や教員のうつ、不登校など、ネガティブなことがテーマとなる。そして、PISAの学力調査の結果や学力試験に一喜一憂するように、学力向上に焦点をあてて、論じられることが多い。しかしそれは、夢中ではなく、集中に力点が置かれる。もっとわくわくするような授業だったら、子どもたちは自分から学んでいくだろう。大学生になっても、大人になっても学び続けたいと思うだろう。子どもも大人も学ぶ主体になるためには、教育のありようを根底から考え直す必要があると、最近考える。海外で話をしたり講義をしたりすると必ず、質問と意見が飛び交い、楽しそうに討論をする。しかし日本では、中学校以上になると、ほとんど一方通行の授業になる。今の日本の教育のあり方と方向性、何かが違うと感じるのは私だけではないだろう。今回の特集は、そのヒントになると考えている。

▼第二特集は、「親の離婚と子ども」である。多くの場合、一時は、お互いに惹かれるものがあり、結婚をして、子どもを授かったのだと思う。形だけの夫婦の間であっても両親のもとで育つのがよいのか、離婚して片方の親と育ったほうがよいのか、難しい問題である。いずれにしても、日本の社会が魅力的であれば、その中で「自分を磨いていこう」という子どもたちが増えていくことは確かなことだと思う。

▼魅力的な人間でありたいと想う。それには修行が足りない。修行という言葉を持ってくること自体が魅力を失わせている。魅力的な教員を養成する、魅力的な教材を開発する、そして魅力的な人間を養成する。日本の大きな課題だろう。そのためには、功利主義・合理主義的な考え方だけでは無理だろう。一見無駄だと思うことの中にヒントがある。直線型で、目標達成主義で、寄り道のない人には、あまり魅力を感じない。見かけだけがきれいな迎合主義的なものではなく、常に「本質を問い続ける」中に本当の魅力はあるように思う。編集委員の一人として、魅力ある「教育と医学」であり続けたいと考えている。

 

 

(増田健太郎)
 
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