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編集後記  第59巻11号 2011年11月
 

▼前職の国立特殊教育総合研究所(旧名称)時代に、「教育と医学」の12月号で特殊教育関連の特集を企画していた。ちょうど10年ぐらい前である。福岡へ移り、今年から「教育と医学」の編集委員として参加している。伝統あるこの会のさらなる発展を願い、微力ながらお手伝いできる機会を得たことを嬉しく思う。

▼「子どもにとって必要な、災害時・災害後のケア」を特集とした。復興に向けて、早期の対策や緊急のケアが求められる。他方、発達期にある子どもへの支援は、10年、20年単位で考えなければならないとの指摘が多い。被災地の現状を把握しながら、阪神・淡路大震災などの経験を踏まえつつ適切な対策が必要になる。

▼この9月に朝日新聞が震災後の教育や子どもへの支援を連載した。震災後1年を前に、被災地で生じている現実から「環境教育」「エネルギー教育」「危機管理」など「教育」として考えなければならないことを整理することは重要だ。6回目の連載は「ふるさとと手を携えて」がテーマであった。子どもが地域に出会う、地域が子どもに出会う。そのために学校が果たす役割が紹介されている。学校は、地域住民の避難生活のために、その後は地域におけるつながりを立て直すために、地域の拠点になってきた。さらに学校教育を再開するためには、地域からの支援が欠かせない。車のタイヤにテープを張った「復興太鼓」を披露する宮城県石巻市立雄勝中学校の生徒の写真が添えられていた。そのような中では、子どもと大人、そして学校と地域社会のつながりや共働が大切となる。

▼子育て・学校教育と地域社会とのつながりは、全国どの地域においても重要なテーマである。核家族における育児不安や親のストレス、児童虐待、学校に対する親や地域住民からの過剰な反応、子どもの社会的スキルの未熟さなど。どの課題においても人々の生活が便利になり、家族や個人が細分化・分断化されてしまったことが原因の一つであろう。このような状況について、「子育て」が「孤育て」や「個育て」、そして「家族」が「個族」などと表現される場合がある。

▼福岡市の教育プランでは、「教育」を「共育」と表現することがある。なるほどと思った。学校と家庭、さらに地域・企業などがそれぞれの役割を果たして、社会全体で子どもを育むことをめざしている。ついでに、子どもが育つことを通して、学校・家庭・地域なども経験を積み重ねて「育つ・成長する」意味もあるのではと考えている。「子育てや教育は、親だけが、学校だけが担う営みでなく、社会そのものが担う営み」との理解が重要だ。戦後に個人主義や民主主義が拡大した。しかし、日本独自の文化に根ざしたものであったか否か検証が必要であろう。

▼便利な日常に埋没していると「つながり」の大切さに鈍感になってしまう。被災地の復興に向けたつながりある活動を持続していこう。「教育と医学」の緊急提言のテーマだが、「子どもたちへの支援の絆がより太く、より強く」なるように取り組もう。

 

 

(徳永 豊)
 
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