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立ち読み  
編集後記  第58巻9号 2010年9月
 

▼筆者のいる大学では、新入生を対象としたゼミ形式の必修授業が行われており、教育学部においても教員6名体制で、50数名の学生指導にあたっている。3年後に訪れる卒業論文をぼんやりとではあるが見定めつつ、学習と研究の進め方の基礎を学び、同時に教育学・心理学に対する関心の幅を広げていくことを目標にグループ学習を進めている。筆者のチームでは、各自が関心のある教育・心理に関わる最新の記事を紹介し、自分の経験をふまえてその記事にまつわる問題意識を提示して、学生同士のフリーディスカッションを行っている。

▼高校を卒業したばかりの学部1年生なので、失礼ながら高校の学級会レベルの議論しか期待していなかったが、予想に反して、強い問題意識を持って大学に入ってきていることに驚かされている。我が学生を褒め称えるようでいささか手前味噌ではあるが、例えばこうである。
 「自分はキャリア教育に関心を持っている。記事では、高校でももっとキャリア教育の機会を増やすべきだ、と書いている。日本では、中学校で職場体験と称して職業の現場を体験できるようにしているが、記事は、高校でもそのような機会を増やすべきだという。しかし、高校でただ職場体験のような時間を増やしても意味がない。そんなことをやっているから、フリーターのような特定の職業を持つことができない若者が増えているのだ」と言う。

▼中学の職場体験がただの見学程度の形で終わっていたという経験談だろうと思って、さらに聞いてみるとこう語る。
 「キャリア教育というのは、ただ、職業の現場を見せると言うことではないはずだ。職業と呼ばれるものにどんなものがあるのか、それぞれの職場で具体的にどのような仕事が行われているのか、まずは、幅広く知ることが必要だ。職業が何かと言うことを知らないままに現場を見学しても意味がない。見学しても、そのおもしろさがわからないまま、職員の後ろにすわっているから興味もわかない。興味がわかないから、他の職業を知りたいというモチベーションもわかない。記事の主張は、そういうことをあまり考えていないように思う」と言う。

▼それならどうすればいいの? と尋ねてみると、「小学校の頃から、まず現場ありきではなく、体育館に多くのブースを設置して、そこにいろいろな職業の方に来てもらう。生徒は自分で選んでそのブースに話を聞きに行く。ブッフェ方式だから、関心のある職業を自分なりにいろいろと知ることができるはず。小学校段階からそうした基礎的キャリア教育を行った上で、中学の職場体験や高校でのキャリア教育に、現実味をもって参加させるようシステムを作るべきだ」というのだ。そして、「今、高校生が目的意識もなく、なんとなく普通科を選んで入っているように思う。そうした小学校段階からのキャリア教育がなされればもっと実学系の高校を真剣に選んでくる高校生も増えてくるのではないか」とまで付け加えた。この授業が楽しみになっている筆者の今日この頃である。

 

(遠矢浩一)
 
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