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編集後記  第57巻6号 2009年6月
 

▼これまでに幼小や小中連携の取り組み、新設される小中一貫校のカリキュラム編成に関わる機会がありました。そこでは、幼稚園の先生も小学校の先生も中学校の先生もそれぞれの立場に立ち大きな努力を払っていました。ただその場で私が感じたのは、幼稚園と小学校、また小学校と中学校では、先生方の持つ教育観や子ども観、そして実際の指導方法が大きく異なっているということでした。その差異は一朝一夕では埋めることは困難だろうと思いました。

▼また、先日、ある地域で小中一貫校が新設されたことがテレビのニュース番組でとりあげられることになり、私に対して小中一貫制や小中一貫校についてコメントが求められる機会がありました。その地域では、少子化の進行や学校選択制の導入等の状況のもと、学校の生き残りのためにも特色ある学校をつくるということで、小中一貫校を新設することになった経緯があるようでした。
 小中の連携や小中一貫校について、制度や仕組みを整えることは、極めて重要な作業に違いありません。ただ、本来、制度や仕組みを整えることは子どもたちの教育のための手段であって、目的ではありません。しかし、どうも制度や仕組みを整えることそのものが目的となってしまう場合や、子どもたちの教育ではなく他の目的のための手段となってしまう場合があるのではないでしょうか。

▼私は、特色ある学校づくりとしての小中一貫校を頭から否定するわけではありません。ただ、先にふれた、小学校と中学校など学校種による教師の教育観や子ども観、指導方法の無視しがたい差異と、教育において制度や仕組みを作ることに関する目的と手段の転倒ないし混同という、2つの問題状況について常に考慮しておく必要があるでしょう。
 そういった問題状況を克服するためには、改めて子どもにしっかり焦点を当てる必要があります。私は先にふれたニュースのコメントとして、小中一貫校のメリットがあるとすれば、教師が変わることだという言い方をしました。それは、教育観や子ども観や指導方法の差異を予め埋めてから教育を行うというよりも、子どもの9年間の育ちを見据えて、お互いの実践を、とりわけ子どもがどのように学んでいるかを見合い、共同で検討して、それぞれの教師が観を深化し、方法を更新創造しつつ教育を行うことが大切だからです。そのように一人ひとりの教師が自己を変革し、教育実践を創造し、そして子どもたちがよりよく育つことで、結果として、地域からも認められる特色ある学校となっていきます。そういう筋道が必要でしょう。

▼これは小中連携に取り組んでいる学校や小中一貫校だけでなく、むしろ地域の子どもの義務教育を担う一般の小中学校においてもあてはまることではないでしょうか。まず一人の子どもがどう学んでいるかをじっくりと見つめることから始めてみてはいかがでしょう。できれば、自分一人だけでなく、教科や学校種を越えて、仲間と一緒に。

(田上 哲)
 
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