▼「大和にアンマリ物が多いからだ」。
アカデミズムの視線を撥ね返す、 あくなき蒐集・踏査と人々のネットワーク。 「郷土で研究する」(柳田国男)ことの 意味を近代奈良に探る。
1870年代に廃県・廃仏毀釈による大変革を蒙った奈良県(大和国)。19世紀後半、中央のアカデミズムから、国威発揚のための良質な素材を抱いた地として熱い視線を受けながら、しかし現地で圧倒的に親しまれたのは、モノや場所を媒介にして強固に社会へと根付いた、体系性に欠け整合性も怪しい知識、すなわち「土着」した知であった。アカデミズムは、知の黒船とはなり得なかったのである。 郷土研究者たちは、平城宮跡や南朝史蹟という土地の由緒を掌握・顕彰すべく格闘した19世紀をへて、20世紀に入って訪れた雑誌の季節(読書社会)には、師範学校を軸とするネットワークを駆使して、民俗研究を土俗研究に、考古学研究を金石研究に読み替えつつ盛んに研究を行った。それらは1930年代以降の郷土教育運動へもつながってゆく。そして、「帝国日本」を所与の背景に、仏教文物や実用マレー語といったモノと知識を求めて海外雄飛する者も現れる。 本書は、近代奈良に充満する「好古の瘴気」に中てられた郷土研究者たちの、時に常識はずれで不道徳にすら見える興味深い営為――柳田国男のいう「郷土で研究」すること――を詳細に追い、そこに立ち現れる強烈な現場・現物主義と、場所(踏査)とモノ(収集)への飽くなき執着とから、地域の知的構造を明らかにする。
史苑 立教大学史学会(2018年4月)に紹介記事が掲載されました。執筆者は佐藤雄基氏(立教大学文学部准教授)です。 本文はこちら
出版ニュース 2018年2月中旬号「ブックガイド」(p.29)に書評が掲載されました。
序章 郷土に何が起こったか
顕彰のモニュメント
第一章 平城神宮創建計画と奈良 ――「南都」と「古京」をつなぐもの―― はじめに 第一節 明治三四〜三八年の創建計画 1 平城神宮建設会と「地元」有志 2 貴顕と地主 第二節 明治三八〜四二年の創建計画 1 建議と請願――県会と帝国議会―― 2 霊像と溝辺 おわりに 史料 「平城宮址顕彰会趣意書」 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
黒岩康博(くろいわ やすひろ) 1974年 京都市生まれ。2004年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。京都大学人文科学研究所助教を経て、2014年より天理大学文学部歴史文化学科講師。博士(文学)。専門は社会・文化・娯楽を主とする日本近代史。 主要業績に、本書に収められた論考のほか、関野貞日記研究会編『関野貞日記』(翻刻・註解。中央公論美術出版、2009年)、茨木市史編さん委員会編『新修茨木市史』第3巻 通史V(共著。茨木市、2016年)、などがある。
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