ヒューム生誕300年。大思想家の根幹に迫る! ▼スコットランド啓蒙思想の代表的哲学者デイヴィド・ヒュームが生きたイギリス(とりわけ彼の祖国スコットランド)の18世紀は、一面においては、資本主義の確立途上であり、前近代的な法律や制度も随所に残る伝統社会であった。同時にそれは、急速に世俗化(脱宗教化)し商業化する現代社会の先駆的時代でもあった。 18世紀という時代との格闘のなかで、神(絶対的価値)が存在しない世界、自己利益に動かされ商業的・貨幣的富の現像に幻惑され、それでもなお、ひとつの地域的・国民的単位をもって人類社会の秩序を模索せざるをえない諸個人の世界を先取りした、ヒューム個人の究極の判断の集合体として、ヒュームの社会科学は展開された。 文明と富裕と秩序の肯定、野蛮と貧困と隷従の断固たる拒否と言えば、啓蒙思想家の標準的価値観と思われるかもしれないが、ヒュームにおいては、それらが独断的な世界観やイデオロギーとして主張されるのではない。文明の「進歩」を歴史の絶対的所与として受け入れたうえで、あとは最大限に選択肢を広げ、その範囲内での自由な諸個人による最適な社会秩序の選択を、「中庸」の判断として追求したのである。 本書では、ヒューム研究の第一人者である著者が、国内外の最新の文献を渉猟し、社会科学の定礎者としてのヒュームの思想形成を精緻に描き出す。


『政治思想における言語・会話・討議』政治思想研究 第13号に書評が掲載されました(犬塚元氏評、352-353頁)。
イギリス哲学研究 第36号に書評が掲載されました(伊藤誠一郎氏評、77-79頁)。
経済学史研究 54-2 に書評が掲載されました(森直人氏評、90-91頁)。

序章 ヒューム社会科学の形成と展望――いまなぜヒュームか 1 ヒューム社会科学の形成 2 ヒューム社会科学の展望 3 いまなぜヒュームか――二元論を超えて
第T部 出発 第1章 ヒュームにおける社会科学の生誕 1 問題の所在――哲学と社会科学 2 理性主義哲学の批判と社会科学の方法 3 社会科学における因果法則と人間の自由 4 法則科学としての「政治学」の可能性 5 社会科学における偶然と必然 6 文明の学としての社会科学 ……
著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
坂本達哉(さかもと たつや) 1955年東京生まれ。1979年慶應義塾大学経済学部卒業。1984年同大学院経済学研究科博士課程単位取得。1984年から1986年まで日本学術振興会海外特別研究員(グラスゴウ大学)。1989年慶應義塾大学経済学部助教授。1996年同教授。1996年義塾賞、サントリー学芸賞、2001年日本学士院賞受賞。2005年から2009年まで慶應義塾常任理事。博士(経済学)。専攻は社会思想史。主要著作『ヒュームの文明社会――勤労・知識・自由』創文社,1995年。The Rise of Political Economy in the Scottish Enlightenment, ed. with H. Tanaka, Routledge, 2003. 『経済思想3・黎明期の経済学』(編著)日本経済評論社,2005年。
本書の一部をご覧いただけます
|