南方熊楠生誕150周年(2017年) 『南方熊楠――複眼の学問構想』著者の松居竜五氏による連載です。

連載:『南方熊楠』(松居 竜五 著)

南方熊楠生誕150周年(2017年)!

南方熊楠生誕150周年(2017年) 『南方熊楠――複眼の学問構想』著者の松居竜五氏による連載です。

南方熊楠(1867年5月18日(慶応3年4月15日)生誕)、2017年は生誕150周年です。
『南方熊楠――複眼の学問構想』(松居 竜五 著)は、2016年12月22日に書店販売!※発売日は地域により若干異なります。

「産経新聞」(西日本版、2017年2月21日付朝刊)に松居竜五氏のインタビュー記事が掲載されました。

eo光チャンネル「歴史ろまん紀行」「南方熊楠~南方熊楠生誕150年~」では『南方熊楠――複眼の学問構想』の著者、松居竜五先生のインタビューが放送されます。ぜひご覧ください。

 

第1回 「南方熊楠の書庫」

南方熊楠生誕150周年(2017年) 『南方熊楠――複眼の学問構想』著者の松居竜五氏による連載です。

 はじめて南方熊楠の書庫に入ったときの印象をどのように表現すればよいだろうか。1990年の春、熊楠に関する修士論文を書いたばかりの大学院生だった私は、和歌山県田辺市の南方熊楠旧邸を地元の研究者の中瀬喜陽先生とともに訪れ、熊楠の長女の文枝さんのご好意で、資料を見せていただく機会を得た。
 築二百年はあろうかと思われる土蔵の重い扉を開けると、たった一つの裸電球に照らされたほの暗い一階部分には、木組みの書架が配置されていた。その本棚には、数千冊の英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語などの古い洋書が埃にまみれて陳列されている。一方の壁に沿って、和綴じの和漢書がていねいに積み上げられているのが見えた。
 はしごのような階段で二階部分に上がると、キノコやシダ、藻類を含むさまざまな植物標本が雑然と置かれていた。また、周囲の棚には、大正時代の『太陽』や『日本及日本人』などの雑誌が、年代ごとに紐でくくられている。一階から二階にかけて、数十の木箱があり、中を開けるとノートやメモに、熊楠独特の細字の走り書きが縦横無尽に記されていた。和文だけでなく、漢文、英語などからなるその手稿の端々に、輝かしい天才の知性のきらめきが刻印されていることを、感じずにはいられなかった。
 驚くべきことに、この書庫からは、熊楠の人生のあらゆる期間にわたる知的営為の跡を、くまなく見つけ出すことができた。幼少の頃、つまり明治十年前後に、あり合わせの紙を縒り集めて記した和漢の本草学書の筆写。十九歳で渡米した後、同時代の西洋思想を必死になって読んだ際の書き込みの跡。ヴィクトリア時代の大英博物館で数年をかけて作り上げた、九か国語からなる作品とも言うべき「ロンドン抜書」。神社合祀反対運動で行政と闘った際の新聞記事のスクラップ。
 その他、熊楠という人の一生をかけた奇跡のような学問的挑戦の記録が、この書庫には詰め込まれていた。ほとんどの資料が、それまでの研究ではきちんと紹介されていなかったものばかりであった。まるで数千年前の古代アレクサンドリアの図書館が、完全なままで保存されているのを発見したような気分で、私はこの書庫の中で、長い期間、呆然とさせられた。
 そのときから、私の研究者としての生活は、この南方熊楠の書庫を中心に回るようになった。そして、さまざまな学問分野の多くの研究仲間とともに、近代最高の知性と言うべき人物の全体像を再現していくという世にも幸福な作業に、二十年以上もの間、没頭することになったのであった。


  

連載「南方熊楠」目次

第1回 南方熊楠の書庫(2016.12.1 掲載)
第2回 南方熊楠とコンピュータ(2016.12.8 掲載)
第3回 図鑑の中の宇宙(2016.12.15 掲載)
第4回 「ロンドン抜書」の世界(2016.12.22 掲載)
第5回 マンダラと生態系(2017.1.5 掲載)
第6回 「十二支考」という達成(2017.1.12 掲載)

  

 

『南方熊楠――複眼の学問構想』(松居 竜五 著)

南方熊楠生誕150周年(2017年) 『南方熊楠――複眼の学問構想』著者の松居竜五氏による連載です。 学者熊楠、誕生の軌跡

アメリカ、キューバ、ロンドン、那智――。
世界各地を自ら踏破し、古今東西の膨大な時空に拡がる文献を駆使して、NatureやNotes and Queries に400篇近い英文論考を発表。
西欧の知的潮流に正面から向き合い、独創的な知を紡いだ学者南方熊楠の多様性と集束力の織り成すダイナミズムを描く労作。

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書籍詳細

分野 社会、哲学、思想
初版年月日 2016/12/30
本体価格 4,500円(+税)
判型等 A5判/上製/628頁
ISBN 978-4-7664-2362-4
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著者 松居 竜五(まつい りゅうご)

1964年、京都府生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。論文博士(学術)。東京大学教養学部留学生担当講師、ケンブリッジ大学客員研究員等を経て、現在、龍谷大学国際学部教授。南方熊楠顕彰会理事、日本国際文化学会常任理事、熊楠関西研究会事務局。 著書に『南方熊楠  一切智の夢』(朝日新聞社)、『達人たちの大英博物館』(共著、講談社選書メチエ)、『南方熊楠大事典』(共編共著、勉誠出版)など、訳書に『南方熊楠英文論考[ネイチャー]誌篇』(共訳、集英社)、『南方熊楠英文論考[ノーツ アンド クエリーズ]誌篇』(共訳、集英社)がある。