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『歴史学と社会理論』 立ち読み 

第一章 理論家と歴史家

ピーター・バーク 著 佐藤 公彦 訳

 

 

■ 目次 ■


序文
      ピーター・バーグ



第一章 理論家と歴史家

冒頭より抜粋


『歴史学と社会理論』

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  本書は一見やさしそうに見える二つの問いに答えようとする試みである。それは,社会理論は歴史家にとって何の役に立つのか,という問いと,歴史は社会理論家にとって何の役に立つのか,という問いである。わたしがこれらの問いを「一見やさしそうに見える」と言うのは,この表現はその背後にかなり重要な違いを隠し持っているからである。いろいろな歴史家,あるいは各種の歴史家が,さまざまな理論が役に立つことを,違ったやり方で見つけ出した。いくつかの理論はすべてを包含する枠組みとして,その他のものは特定の問題を解く手段としてであった。しかし他の歴史家たちは,理論に対してかつて強い抵抗を示したことがあったし,依然として示してもいる。理論をモデルや概念から区別したほうが有効ではなかろうか。相対的にごくわずかな歴史家たちだけが,厳密な意味において理論を使っているが,より多くの歴史家たちはモデルを使用しており,一方,概念は事実上不可欠なもので,誰もが使っているものである。

 

   実践と理論の違いは,歴史学と社会学との違いと同じではない。これらのディシプリンの研究者たちでも,理論がわずかな役割しか果たさない事例研究を発表した者もいるし,他方,何人かの歴史家,とりわけマルクス主義者は,エドワード ・トムスンが有名な論争的な論文で「理論の貧困」と呼んだ事態に不満を洩らしたような時でさえも,精力的に理論的な問題を論じているのである。
 そもそも,ここ数年間に社会学,人類学,政治学研究においてきわめて大きな影響を与えた二つの概念は,もともとイギリスのマルクス主義歴史家によって世に送り出されたものなのだ。エドワード・P ・トムスンの「モラル ・エコノミー」と,エリック・ホブズボウムの「伝統の発明」である。しかしより一般的には,これら他のディシプリンの研究者のほうが歴史家よりも,頻繁に,より明確に,より厳格に,より誇らしげに概念と理論を使用している。歴史家と他のディシプリンの研究者との誤解と対立の多くの原因になっているのは,この理論に対する態度の違いなのである。(本文1頁〜2頁より抜粋

 


 

 

 
著者プロフィール:ピーター・バーク(Peter Burke)

ケンブリッジ大学名誉教授。 1937年生まれ。ケンブリッジ大学名誉教授、イマニュエルカレッジの名誉校友(フェロー)。オックスフォード大学卒業後、同大学聖アントニーカレッジで研究、博士論文執筆中にサセックス大学に招聘される。同大学で16年間の教員勤務の後、ケンブリッジ大学に移り、文化史講座教授を長く担任。 New Cultural History を提唱し、「文化史」概念を刷新。ヨーロッパ史家、文化史家として世界的に著名な歴史家。 著書(邦訳)に、『イタリア・ルネサンスの文化と社会』、『ルイ14世―作られた太陽王』、『知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか』など多数。

佐藤公彦(さとう きみひこ) 

東京外国語大学外国語学部教授。 1949年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。中国近代史・東アジア国際関係史専攻。 著書に、『義和団の起源とその運動―中国民衆ナショナリズムの誕生』、『続中国民衆反乱の世界』(共著)、『宗教の比較文明学』(共著)、『黒旗軍―十九世紀中国の農民戦争』(翻訳)など。

 

 

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