教育と医学の会が60年前に立ち上げられたときに、障害をもつ子どもの早期発見、早期療育ということの必要性が提言され、“これこそ教育と医学という視点から進められるべきだ”という理念のもと、3歳児健診のモデルがつくられ、実践され、全国に広がっていきました。遠城寺式・乳幼児分析的発達検査表もこの運動を支援するツールとして編み出されたものです。
3歳児健診とその指示に基づく療育は、障害が疑われた子どもたちの発達支援に多大の成果を上げたのみでなく、子どもが発達していく、つぶさな道筋やそれに影響を及ぼすさまざまな要因を理解させてくれました。そして30年、40年という年月が経つと、子どもの発達が遅れているようだとか、その歩みが少し揺らぎはじめているのではという心配がもたれたら、もっと早期にそれを確かめ、その子どもたちへの療育を始めるべきだ、という機運が生まれ、1歳半健診、7カ月健診、1歳からの母子療育などの制度が生まれ、各地でそれぞれの地域の独自性をもった療育活動が進められるようになりました。
15年前から急速に普及してきた1歳半からの療育活動は、障害をもつ子どもたちの発達を促し、子どもたちの姿を著しく変えたように思われました。自閉症スペクトラム障害と診断される子どもでも、50年前には多かったカナーの早期幼児自閉症の行動特性をしめす子どもは見られなくなり、2年間にわたって療育を受けた3、4歳の子どもたちはすっかり明るくなって、障害はもう消失したかに思われる子どもも少なくありません。しかし、その子どもたちが小学生になるとだんだんと不適応行動や社会性の欠如が目立つことが指摘されるようになりました。『子ども・若者白書(平成25年版)』によると、発達障害児のための自立支援の教育的配慮が必要な子どもが小学生全児童の7.7%に及ぶと報告されています。
これはどういうことを物語っているのでしょうか。一つには幼児療育を3、4歳でやめないで、就学までは引き続き見守ってやることが必要と言えるでしょう。本号のテーマである「就学前における発達障害児の理解」はまさに3歳から6歳にかけての子どもの発達のありようが生涯にわたって重要な意味を持つことを論じたものです。“5歳児の危機”ということも語られていますが、障害を背負う子どもたちにとっては重要な時期です。
さらに私は、この時期の子どもたちの発達に共感をもって触れ合うという私たち療育者、保育者の姿勢がことのほか大切だと考えています。子どもの発達を見るとは、その子の年齢で一般的に要求されていることができるかの客観的なチェックではなく、子どもたちの行動に私が共感しながら見つめ、理解してやれるか、また私の子どもへの働きかけを子どもが私の意図を汲んで応じてくれるまでに成長したかを知ることであり、療育とはお互いにそれが可能になるようにという営みと言えましょう。発達をこれまでとは違った視点で見つめ、子どものこころと触れ合っての働きかけができるようになりたいものです。
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