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編集後記  第64巻5号 2016年6月
 

▼高校生まで私が暮らした熊本は、新緑の美しい季節に大地震に見舞われました。多くの人たちが被災され、大切な人を亡くした方、住み慣れた家が崩壊し避難生活を余儀なくされた方々が大勢います。本震では私のいる福岡市内も大きく揺れ、西方沖地震の記憶が蘇り恐怖を覚えましたので、熊本や大分で被災された方たちの心身のストレスはいかばかりかと想像に堪えません。ヴォーリズ建築の我が母校も校舎が大きな被害を受け、授業が再開できない状況のようです。

▼武者返しで有名な熊本城の石垣、屋根瓦は崩壊して修復に時間を要することでしょう。壮大な大自然が美しい南阿蘇、温泉で有名な大分の湯布院、別府、竹田は、海外からも多くの人々が訪れ九州が誇る観光名所ですが、旅行客の予約キャンセルが相次いでいるようです。一日も早く観光客が安心して訪れることができる日が来るように、正確な情報が発信されることを願っています。

▼避難所では高齢者の方が多く、また、大人たちが地震で壊れた自宅の片付けや仕事先での対応に追われるなか、自らも被災した中高生や大学生が自発的にボランティアで活動していると聞きます。今回の地震では若い大学生も犠牲になりましたが、若い人たちの力がまた熊本を元気づけてくれています。被災した方々が安心して生活できるまでには、相当の時間がかかるものと思われますが、若者たちの力で少しずつでも被災地に希望の光が見えてくることを祈らずにはいられません。報道やインターネット上で報じられない場所で、一日も早い復興のために静かに自分の役割を果たし一隅を照らしている人たちがいることにも、心を寄せて感謝をしたいと思います。

▼熊本、大分の被災した皆さんへ「力になりたい」「役に立ちたい」という思いが日本中にあふれています。自分のできることで人の役に立てるとき、人は自己有用感を感じ生きていく勇気が生まれます。それは、人から賞賛されるためではなく、自分も相手もありのままの存在を尊重して共存して歩むとき、大きな力が生まれるのかもしれません。

▼その一方で、大きな困難に立ち向かおうとするとき、人は自分の弱さに蓋をして頑張ろうとしてしまいます。大人も子どもたちも、見えないストレスによる心身の不調に気がつかないまま過ごしてしまう可能性があります。「家族と安心して生活できること」「学校に行けること」「友達と遊べること」、当たり前のことができることが一番子どもたちに必要ですが、眼に見えないストレスは、体調不良だけでなく、思いもかけない言動や感情の爆発として現れるかもしれません。問題行動ととらえられる子どもたちのSOSは何なのか、子どもたちや家族に寄り添って一緒に考えていける大人が必要です。「教育と医学」がそういった人材の育成に役に立てればと思います。

▼本誌が読者の方々に届く頃、熊本の余震が収束に向かい、被災された方々の生活が少しでも改善されていることを心からお祈り申し上げます。

 

(安元佐和)
 
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