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編集後記  第61巻6号 2013年6月
 

▼子どもがスポーツや外遊びをする時間は減少しているが、それには外遊びをする場所の減少、ITの普及などによる遊びの変化、少子化などの環境の変化が影響していると言われている。しかしながら、これらの原因への直接的な対応は困難である。子どもたちがスポーツや外遊びをする時間を増やすための現実的な対策をとろうとすれば、発想の転換が必要であると考える。

▼私はマーケティングの手法を取り入れて、子どもにスポーツや外遊びをするための動機づけをすることを提案したい。マーケティングとは、「個人やグループが必要とし、欲求するものを満たす社会的プロセス」である。したがって、子どもたちにどのような潜在的なニーズがあるのかを明確にし、そこにアプローチすることが必要と思われる。私は平成22〜4年度まで、福岡市東区の「健康とエコを考える会」のイベントに関わった。そのイベントで、「運動が苦手な子でも楽しくできるかけっこ&体操教室」を行うと市の広報誌で公募したところ、なんと500人以上もの応募があった。「一人ひとりの子どものレベルに合わせて、できるように支援」することに潜在的なニーズがあることに気づかされた。考えてみれば、子どもたちだけに自由にスポーツや外遊びをやらせると「運動のできる子」や「強い子」が楽しめる状況になってしまいがちである。そのような場では、「運動の不得意な子」や「弱い子」は自然に排除されてしまうこともあるようである。したがって、子どものそれぞれの発達段階でふさわしいスポーツや外遊びを適切に支援できるマインドをもった支援者の存在が望ましいのである。

▼支援者は子どもに優劣を競わせるのではなく、体を動かす楽しさのみならず、上達する楽しみを味わわせたいという意識が不可欠である。子どもが自分で工夫してできたという達成感は、子どもたちが必要とし、欲求するものである。そして、子どもの「成長」を支援することも重要なニーズである。エリクソンによれば、幼児期に望まれる成長は「第三者に配慮できる社会性」、学童期に望まれる成長は「集団の中で自分の役割を果たせる協調性」である。子どもたちはスポーツや外遊びを通じて、いくつかの失敗と成功、傷つきと安心を経験しながら、他人に配慮する力や協調性を習得していくことができる。またある子どもが、他の子どもに対する言動に問題がある場合は、支援者が相手の気持ちをやさしく説明し、どのようにふるまったらいいかアドバイスを行い、その子が相手の立場に配慮できたときには、しっかり褒めて強化する必要があろう。

▼望ましい行動変容によって周りとの関係も良くなれば本人に自信が芽生える。子どもは、他の子どもと良い関係ができると、それが新たな望ましい行動変容への動機づけとなり、社会性や協調性も改善していく。これらのプロセスが成功体験を生み、周囲に配慮しながら自分で判断できる能力を育んでいくことにもつながると思われる。

 

(馬場園 明)
 
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