『週刊 東洋経済』(2010年8月14・21日合併特大号)の
第2特集「2010年上期 ベスト経済書&政治書」12位に『倫理的な戦争』が取り上げられました。
「読売・吉野作造賞」を受賞しました!
読売・吉野作造賞に細谷雄一・慶大准教授 - 文化(asahi.com)
「細谷雄一の留学記」(外交史研究者によるフランス留学記)にも本書の関連情報が掲載されています!
著者メッセージ『倫理的な戦争 トニー・ブレアの栄光と挫折』(細谷 雄一 著)|戦争によって「正義」は実現できるのか? このページでは『倫理的な戦争 トニー・ブレアの栄光と挫折』(細谷 雄一 著)著者からのメッセージをご紹介します。
 
NEWS
第11回「読売・吉野作造賞」に「倫理的な戦争――トニー・ブレアの栄光と挫折」が選ばれました。
   
倫理的な戦争 --トニー・ブレアの栄光と挫折 細谷 雄一 著
 

倫理的な戦争 ――トニー・ブレアの栄光と挫折

    
 
    
細谷 雄一 著
    
四六判/上製/448頁
初版年月日:2009/11/11
ISBN:978-4-7664-1687-9
定価:2,940円
  
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戦争によって「正義」は実現できるのか?

▼はたして、倫理的な戦争などというものが、あるのだろうか。あるいは、「善」なる目的を掲げ、戦争によって「正義」を実現することは可能だろうか。国家主権の境界線を越えて、人権の問題、道徳の問題、倫理の問題を問うことは可能であろうか。

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本書の詳細
   
イギリスのブレア首相は大きな国際的秩序の構想を掲げて米欧の間をつなごうと試みたが、イラク戦争をめぐって自らの構想と戦略において大きく躓き、自らの政治的名声を損ねることになった。
   
ブレアが苦悩し、真剣に直視したこれらの難しい問題こそ、21世紀の国際政治を考える上で中心的な課題であり、本書では、ブレアが外交を指導したこの十年間を振り返って、その意味を再検討する。
   
多くの公開資料をふまえた外交史家の広い視野からの考察と、いきいきとした筆致が最後まで一気に読ませる、渾身の大著。
   
お知らせ: 「細谷雄一の留学記」(外交史研究者によるフランス留学記)にも本書の関連情報が掲載されています! 
   
特別寄稿
   
 

『倫理的な戦争 ――トニー・ブレアの栄光と挫折』
刊行にあたって



細谷 雄一 (慶應義塾大学法学部准教授)


 本書は、1997年から2007年までの十年の長きにわたってイギリスの首相の地位にあったトニー・ブレアを中心に位置づけて、イギリスが関与したイラク空爆(1998年)、コソボ戦争(1999年)、アフガニスタン戦争(2001年)そしてイラク戦争(2003年)を論じたものです。もしかしたら「倫理的な戦争」という本書のタイトルを見て、少なからぬ読者の方がいぶかしく思われるかもしれません。私たちの一般的な認識では、戦争が「倫理的」であるはずがないからです。戦争そのものこそが「悪」であり、それを避けることが戦後日本における最高の政治的道徳であったはずです。そのことは私自身も十分に認識しております。それを前提にしながら、本書では1990年代半ば以降に国際政治の新しい潮流となってきた、人道的・倫理的な目的を掲げた軍事介入の意味を検証することを目的としております。

 

 本書の「はじめに」の中でも書きましたとおり、私は必ずしも「戦争が倫理的である」と主張しようとしたわけではありませんでした。そうではなくて、世界に依然として残っている専制的政府による民族浄化などの非人道的な政策を、倫理的な目標を掲げて軍事的な強制力を用いて阻止しようとする政治的な試み、すなわち本書でいう「倫理的な戦争」を、同時代史的なアプローチで批判的に検証することを目的としたのが本書です。いわば、「悪」を排除しようとして軍事的強制力を用いるブレアの倫理的な意図と、そのような軍事力行使によって産み出される非倫理的な「悪」を、可能な限りバランスよく冷静に描くことを試みました。それはとても難しい作業で、どの程度それに成功したのかは読者の諸賢の判断を待ちたいと思っております。

 

 しかしそれ以上に大きな本書の目的とは、冷戦終結後の世界において、1990年代半ば以降広がっていった新しい国際政治の潮流を、ブレア首相の政治指導を中心に描くということでした。いわば従来の一般的な認識から変化が生じ、道徳的な問題や規範的な問題が国際政治を論じる上で中心的な位置を占めるようになったのです。それまでは国際政治を、何よりもパワーや国益の観点から論じるのが主流であったのですが、「CNN効果」などによって一般の視聴者が人道的な惨状を直接テレビの映像を通じて目にするようになり、さらには人権NGOの発展が西側政府に対して積極的な行動への圧力をかけるようになったことも影響し、非人道的な惨状を放置することに対する批判の声が強まってきたのです。

 

 1994年のルワンダ大虐殺で80万人が、そして95年のスレブニッツァにおいて20万人が虐殺されたと報じられていますが、これら100万人がわずか1年ほどの短い期間に殺戮されたことに国際社会は無関心でした。自らの国益や国家安全保障に直接関係ないと感じたからです。それ以前も、ナチス時代のヨーロッパ、スターリン時代のソ連や、ポルポト時代のカンボジアなど、20世紀の歴史の中で膨大な数の無実の人々が殺されてきました。独裁国家の中で行われる殺戮に対して、それらの諸国が外交交渉を拒んだ場合に、軍事的な手段を用いてでもそれらを食い止める必要があるという新しい規範が、冷戦後の国際社会で巨大な勢力となって浮上してきました。いわば従来の主権不干渉原則を越えて、国際社会の人道的な問題に介入すべきだという潮流です。そのような潮流を敏感に感じ、真剣に受け止める新しい世代の中心人物が、このトニー・ブレアだったのです。しかしそのようなブレアの試みも、大きな限界につきあたりました。

 

 イラク戦争における米英両国政府の挫折は、これらの問題に関する取り組みを根底から問い直す機会を提供しました。はたして、「善」なる目的を掲げて、国境を越えて「正義」を実現することは可能なのでしょうか。それは好ましいことなのでしょうか。それが困難であるときに軍事的な強制力を用いることを、どのように考えるべきなのでしょうか。本書が問いかける問題群はむしろ、イラクやアフガニスタンの情勢が混迷を深めている現代においてこそ、より重要になっているようにも感じます。そして、1998年のイラク空爆から2003年のイラク戦争に至るまでの5年間の経験を慎重に検証することで、今後の国際政治に必要ないくつかの教訓を導くことが出来ると考え、終章では「戦争の教訓と未来への展望」と題してそれらを描いてみました。

 

 私はこれまで、イギリス外交史を専門として、ヨーロッパ国際政治史についての研究を中心に研究を刊行してきました。現代の問題を直接論じて単著をまとめるのは、はじめての機会となります。しかしながらそれを行う方法としては、資料的な限界を認識しながらも、可能な限り歴史的なアプローチをとっております。資料をもとにして、冷静かつ客観的に大きな時間の流れを紡ぎ出しております。過去の難しい問題に目をつぶることなく、それを直視してそこから教訓を摘みとって、今後の国際政治を考えることこそ私たちに求められていることだと感じております。本書をお読みになる一人でも多くの方々がそのような問題意識を膨らませて頂ければ、著者としてはこれにまさる喜びはありません。

 
     
著者・訳者略歴
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細谷 雄一
(ほそや ゆういち)

慶應義塾大学法学部准教授。1971年生まれ。
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。

<主要著作>
『戦後国際秩序とイギリス外交』(創文社、2001年、サントリー学芸賞)
『外交による平和』(有斐閣、2005年、政治研究櫻田會奨励賞)
『大英帝国の外交官』(筑摩書房、2005年)
『外交―多文明時代の対話と交渉』(有斐閣、2007年)、
(編著)『イギリスとヨーロッパ―孤立と統合の二百年』(勁草書房、2009年)
(共著)『新版・ヨーロッパ国際関係史』(有斐閣、2008年)、ほか。

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