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編集後記  第59巻6号 2011年6月
 

▼このたびの東日本大震災で被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。少しでも早く復興されますことを祈念しております。

▼さて、今回の特集では、児童虐待への早期対応と対応の上で重要な位置にある学校での取り組みや課題を取り上げた。実は、私は7年ほど前、保育所での児童虐待の早期発見と対応に関する研究を行っていた。その時、多くの保育士さんが虐待に対応する時に直面する多くの問題を語ってくれた。そもそも何が虐待なのか、どのように疑ったらよいのか、仮に虐待と疑ってもそれをどのように扱ったらいいか、園内では扱い方が決まっていない、園長・主任がその問題に積極的でない、保護者との対立が怖い、対応に園長が前面に出てくれず一人で対応せざるをえない、どこに相談したらいいのか、どのように相談したらいいのか、どこまで誰が何をしてくれ自分たち(保育士・園)は何をしないといけないのか等々。
 ここには様々な種類の問題が含まれている。これらを解決するためには、虐待の発見の仕方の訓練だけではなく、対応に向かって保育士や園が体制を作り意識改革と覚悟づくりをする、さらに具体的に自分がすべきこと・してはいけないことを知る、誰(保育士・園・支援機関)がどこまで何をすべきかを知る、どういった種類や程度の問題は誰からどこまでの援助を得られるかを知る、どういう外部の支援体制や連携体制があるのかを知る、といったことが必要だろう。

▼ここで特に強調したいのは、連携関係のあり方である。というのは、連携が効果的に機能するためには、各組織が自らの役割を明確に規定し相互に共有していることが必要であり、問題が発生したとき、こうした共有された役割分担の前提のもとに決まった手順で役割を果たすことで、協同対処がスムーズに行えるからだ。学校では何をどこまで行うのか、いつ市町村へ支援を求め、そこではどこまでの対応をするのか。児童相談所はどういった事例に対応し、どこまでどのように対応するのか、その結果どうなりそうなのか。医療関係はどう関わるのか。警察はどういう時どこまで関与してよいのか。これらがスムーズに動くためには、これらすべての組織が、相互にどのような機能・責任分担を持ち、どのように連携するのか、全体をどの機関が実質的に管理監督するのかなどが規定され、明文化されていることが重要である。と同時に、各組織が相互にそれを熟知し、具体的にそれにのっとって動ける体制づくりと訓練が必要である。さらに法律でそれを保障することが重要だろう。

▼児童虐待への対応は、家庭、学校、地域だけでできる問題ではなく、国全体で子どもの健全な成長を保障する中心的課題の一つとして真摯に取り組むべき問題と認識する必要がある。こうした児童虐待の早期発見・対応・支援の体制を確立し、それをすべての人が共有し、実践する。と同時に、学校でもこれを安全教育の一環として教えることが必要だ。

 

 

(加藤和生)
 
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