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編集後記  第59巻7号 2011年7月
 

▼今年1月から「教育と医学」の編集委員となった。医学・教育学・心理学など、それぞれ専門分野が違う編集委員が、子どもの教育の問題を軸に、テーマと執筆者を検討する。専門分野が違う編集委員だからこそのおもしろさ、奥深さがそこにはある。昭和28(1953)年の創刊以来697回脈々と続いてきた静かで熱い論議である。3.11の東日本大震災後は、「教育と医学の会」として、何ができるのかが毎回のテーマである。本誌発行日の社会の有り様とニーズとのずれはないのか等々、議論しながらの編集会議である。異分野の連携・協働は古くて新しい課題であるが、異分野の専門家の協働の結晶知として「教育と医学」があることを実感させられる。

▼さて、7月号は「学級崩壊を建て直す」と「動物と親しみながら学ぶ」がテーマである。学級崩壊は、平成10年前後にマスコミで大きく取り上げられ、学級崩壊あるいは、学校崩壊が社会問題化した。昨今はマスコミにあまり取り上げられないため、学級崩壊が減少している印象だが、現実は深く広がっているように思う。学級崩壊は、いじめ・不登校・保護者のクレーム・教員のうつや教職員の人間関係など、あらゆる学校臨床問題が集約的に表出する。教員評価制度なども微妙に影響しているように思われる。崩壊した学級を建て直すことは、実際には容易ではない。担任一人で抱えるのではなく、学校・学年として、あるいはスクールカウンセラーや地域ボランティア、ボランティア大学生など、チームで子どもたちを教育していくことが求められる。そのためには、学級の子どものこと、自分の悩みや指導法などについて安心して話せる職場環境が必要である。学校のウチとソトで支援し合う協働関係が求められる。安心して話ができる信頼感はその土台である。

▼動物と親しみながらの教育といえば、長野県の伊那小学校を思い出す。総合的な学習が始まる前から、牛や山羊などを学級単位で飼い、世話をしながら、生きること、いのちと自分、社会を考える実践を行っている学校である。学校を訪ねた際、子どもたちのきらきらした瞳を通して、先生たちの熱い思いを感じたことを思い出す。カリキュラムを子どもたちとともに創っている学校であった。以前の小学校には、鶏やウサギなどを飼っている学校が多かった。しかし、鳥インフルエンザの流行の頃から、保護者からのクレームが多くなり、学校で生き物を飼う状況が難しくなってきている。死んだ後の処置に困る、鶏は鳴き声がうるさい等々。子どもたちがストレスフルな状況の今こそ、動物とふれあい、そこから学ぶことは大きいように思われる。人間にはない力を動物は持っている。

▼「学ぶとは誠実を胸に刻むこと 教えるとは共に希望を語ること」。高校生だった神田理沙さんが書いた詩のフレーズである。今の日本、被災地の復興、被災者支援など大変な状況ではあるが、子どもたちとともに希望を語ることが必要だと痛感する。

 

 

(増田健太郎)
 
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