特設サイト:『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編)「道化となり交わり、狂者となり駆け回る――よみがえる土方巽」

細江英公の傑作が新たによみがえる

「鼬の話」土方巽、鎌鼬美術館名誉館長 細江英公氏による序文

■『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編) 2016年11月10日に書店販売!※発売日は地域により若干異なります。
■鎌鼬美術館が秋田県羽後町に開館しました。 Facebookページはこちら(2016.10.22)

 

「鼬の話」 土方巽

特設サイト:『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編)「道化となり交わり、狂者となり駆け回る――よみがえる土方巽」

 鼬というのは真っすぐに鶏のほうに走っていって、首、羽、足そういうものを?み切ってしまう。そんなところに意味もくそもなにもないわけです。その鼬のすさまじさ、あのすばやさ、そういうところに意味なんか探したって何の役にもたたないわけです。その鼬には鶏を攻めていたときに、鼬のからだの中になにか隠れているものがある。そいつが顔を出して私の顔を覗き込んだんだ、やさしい顔をしてね。私が内部に内密に保有していたもの、親しんだもの、古い馴染みがそういう暴力という形で私のまわりに待ち悩んでいる、迫ってきている。そういう状態からみれば、人間がなにかを恥かしがったりしている暇がなくなっている。鼬と俺、それにくわえた鶏の肉、そのものがまったく同じに見えてきてしまう。もう恥かしがっていられない。

 

  

 

鎌鼬美術館名誉館長 細江英公氏による序文
土方巽は鎌鼬の里で今も生きている(本書より抜粋)

特設サイト:『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編)「道化となり交わり、狂者となり駆け回る――よみがえる土方巽」
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 田代に鎌鼬美術館が開館することを土方巽さんとともに喜びたいと思います。この写真集も開館を記念して出版されます。タイトルが『鎌鼬 田代の土方巽』ということですが、まさに土方さんに捧げる写真集です。

 土方さんと私が田代を訪れたのは1965年の9月のことでした。写真を見て分かるとおり、秋の刈り入れ時に七曲峠を越えて田代に入ったのです。事前のロケハンもなく、わずか2日間の撮影で、これだけの写真が撮影できたのですから、天の恩寵といっていいでしょう。突然押し掛けてのハプニングのような撮影で、村の人たちにも迷惑をおかけしましたが、私たちのお願いや要求にもよく応えていただきました。

 土方さんが輿の上に座して行進している写真がありますが、あの輿も急遽、村の人たちに、稲架(はさ)に使う材木で稲架を立てるように組んでいただいたのです。

 また、少女たちが共演者のように振る舞ってくれました。土方さんが飛んだり跳ねたり、駆けたりすることに、嫌な顔も見せずに付き合ってくれたのです。かくして、村全体が舞台になったようで、音楽があれば、まさに舞踏の舞台といえる行為だったのです。撮影者である私も土方さんと一緒になって走り、シャッターを押したのです。

 村の人たちにとっては事件であったでしょう。驚きながらも受け容れていただき、まさにハプニングとコラボレーションの成果が写真となって結実しています。

 なぜ、うまくいったのか。村の人たちには見慣れない撮影であったこと、土方さんの他人を巻き込む独特のキャラクターと才能があったこと。そして、私は山形弁を話せますし、土方さんはもちろん秋田弁を駆使できました。村の人たちに東北弁で語りかけていたことで、親しみを抱いてくれたと思います。東京の言葉ではこうはいきません。

 鎌鼬美術館は旧長谷山邸を使いますが、ここでも撮影を行いました。土方さんは自分の家のように入り込んでいきました。そして、暗闇の空間にひそむ、あるいは佇む土方さんを撮影しました。

 田んぼも旧家も舞台として、道化となり狂者となった土方さんをカメラが鷲?みにして『鎌鼬』ができたのです。私がしばしば言う「写真術だけができる独壇場」です。

 写真集としての『鎌鼬』は、田代だけではなく、筑波山麓や東京で撮影した写真も含まれています。それぞれ大事な写真ですが、やはり田代の写真が中心です。田代の写真がなければ、写真集『鎌鼬』は成立しません。

 土方さんはよくぞ「鎌鼬」と名付けてくれました。こうして写真集が残されることで、土方さんは今でも生きています。今も鎌鼬の里で生きているのです。

 

特設サイト:『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編)「道化となり交わり、狂者となり駆け回る――よみがえる土方巽」

 

  

 

関連情報:鎌鼬美術館のFacebookページのご案内

2016年10月22日、秋田県羽後町に鎌鼬美術館が開館しました。

鎌鼬美術館のFacebookページをご紹介します。

  

 

『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編)

特設サイト:『鎌鼬――田代の土方巽』(細江 英公 写真、鎌鼬美術館 編)「道化となり交わり、狂者となり駆け回る――よみがえる土方巽」

道化となり交わり、狂者となり駆け回る!―― よみがえる土方巽

 写真家・細江英公が、舞踏家・土方巽を撮影した『鎌鼬』は、1969年に現代思潮社より刊行され、芸術選奨文部大臣賞を受賞。その後も、2005年に復刻版・2009年に普及版(どちらも青幻舎)が刊行されるなど、現在では、世界の写真史に記される高い評価を受けている。

 本写真集は、秋田県田代の鎌鼬美術館の編集により再構成した「田代バージョン」である。写真17葉を収め、さらに東京、筑波の写真も掲載し、瀧口修造の序文、横尾忠則のポスター、そして解説を付した。 

 「田代の里=鎌鼬の里」として、貴重な写真と、舞踏家の存在と、里の風景を後世に伝え残していくべく、2016年10月に満を持して開館する「鎌鼬美術館」。その開館に合わせ刊行する本写真集によって、土方巽はどのように変遷していくのか? 日本の「舞踏」・世界の「Butoh」が、強烈な存在感をもって顕現する1冊。

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書籍詳細

分野 芸術・舞踏
初版年月日 2016/11/15
本体価格 2,700円(+税)
判型等 B5判(ヨコ)/上製/64頁
ISBN 978-4-7664-2387-7
書籍詳細 目次や詳細はこちら

  

 

著者 細江 英公(ほそえ えいこう)

写真家。1933年山形県米沢市に生まれ、東京で育つ。代表作に『おとこと女』(1961年)、『薔薇刑』(1963年)、『鎌鼬』(1969年)他多数。近作に、舞踏家・笠井叡を撮影した写真集『透明迷宮』(2016年)がある。2003年、英国王立写真協会より創立150周年記念特別勲章を受章。2007年、写真界のアカデミー賞といわれるルーシー・アワード(米)のビジョナリー賞を日本人で初めて受賞。2010年文化功労者に選出。東京工芸大学名誉教授、清里フォトアートミュージアム館長。

  

 

著者 土方 巽(ひじかた たつみ)

舞踏家。1928年秋田県秋田市に生まれる。1986年没。1959年、「全日本芸術舞踊協会・第6回新人舞踊公演で「禁色」を発表。以後、「土方巽 DANCE EXPERIENCEの会」開催、細江英公映像作品「へそと原爆」(1960年)出演、1978年のパリ市フェスティバル・ドートンヌ「間展」に「闇の舞姫十二態」を出品するなど、前衛的な舞踊の第一線で活躍する。日本のダンスシーン、演劇シーンに多大な影響を与えた。著書に、『美貌の青空』、『土方巽全集』がある。