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 「大のおとな」が『星の王子さま』について本を書いたという ので、実は今のところ、こそこそとしている。が、おりからの 新訳ラッシュ、日本でもこのサン=テグジュペリの遺品の価値が認知されて、おじさんだって『星の王子さま』ファンだと胸をはれる日も近いのではないか。
 それにしてもこの本、世界百数十の言語に訳され、聖書とも比較されるわりには、つまらなかったとか、あまり覚えていないという人が多すぎる。「児童書」という分類がいけないのだ 。もうないのかもしれないが「課題図書」といって、子どもが 強制的に読まされる仕組みも疑問だし、「童心賛歌」といった作品をおおう奇妙な神話もいただけない(そもそも童心って何?)。
「大切なものは目には見えない」「この世で唯一のバラ」など、いろいろ有名なモチーフが散りばめられた作品だが、原文を見直すと、さまざまな深いメッセージが見えてくる(「行動する作家」サン=テグジュペリは、執筆当時、ナチスの電撃作戦に屈した故郷フランスを離れ、安全なニューヨークへ亡命中。そんな状況も無視できない)。
 そもそも、この小品、ヨーロッパのアレゴリー文学の伝統を引き、いく層にも入り組んだ意味をもつ小説で、一筋縄でいかないのはあたりまえなのである。 
 ずいぶん長い間、この作品とは付き合ってきた。いい加減、 卒業しようと思って、この際、言いたいことを言って終わりにしようとした。が、書き終わった今、また、いろいろと疑問が浮かぶ。どうやらきりがないようだ。

 

 
著者プロフィール:片木 智年 (かたぎ・ともとし)
慶應義塾大学文学部助教授。専攻は、フランス古典文学、おとぎ話論。
パリ第三大学博士課程1989年修了。主要著作に『ペロー童話のヒロインたち』(せりか書房、1996年)などがある。

※著者略歴は書籍刊行時のものを表示しています。
 

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