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東日本大震災・緊急提言  第59巻5号 2011年5月
 

 子どもたちへの支援の絆をより太く、より強く


満留昭久 (教育と医学の会会長。国際医療福祉大学教授、福岡大学名誉教授。小児科医師)

 

 2011年3月11日、午後2時46分、マグニチュード9.0の地震が三陸沖に発生し巨大な津波が岩手、宮城、福島県を中心に東北・関東の太平洋側の海岸を襲いました。地震発生後時間がたつにつれ、その被害は想像を絶するものになり、津波により多くの町は壊滅状態になり多くの人命が奪われました。4月13日午前10時現在、死者は1万3,333人、行方不明者は1万5,150人、避難者は14万510人と報道されています。

 3月25日、親と離ればなれになった子どもの実態を把握するために、各地の児童福祉士17名が岩手県に入ったというニュースに接しましたが、この時点でもいったい何人の子どもたちが亡くなったのか、何人の子どもたちが行方不明になっているのか、親や家族を失った子どもたちはどのくらいいるのか、詳細はまだ報道されていません。行方不明の両親と妹を待って、津波で消失してしまった町並みを見下ろす高台にポツンと座っている女の子の報道写真を目にしました。災害の規模からみて16年前の阪神淡路大震災のときの何倍もの子どもたちが支援を必要としているのだろうと思うと胸が痛みます。

 災害を受けた子どもたちのために何ができるのか、私たちは阪神淡路大震災から多くを学びました。今度の大震災でも子どもたちのために、すでにいろいろな活動が始まっています。


・全国里親会は、「大震災こども救援基金」を設立し、子どもを受け入れるための準備を開始。
・大阪府は、ホームステイとして受け入れる家庭の募集を開始。
・兵庫県こころのケアセンターは、災害直後に提供できる心理的支援のマニュアルをネット上に公開。
 日本小児科学会、日本小児精神医学研究会も子どもへの対応の仕方を公開。
・日本ユニセフ協会は、各地の避難所に「子どもにやさしい空間―child friend space―」をつくるために
 「ユニセフちっちゃな図書館」プロジェクトを開始。
・あしなが育英会も震災孤児のための支援を開始、などなど。


 災害を受けた子どもたちのために私たちがしなければならないことは、(1)親や家族を亡くした子どもたちへのグリーフケア(喪失悲嘆からの回復支援)、(2)大災害によるこころのトラウマに対するケア(救急のケアおよびPTSDに対する長期的ケア)、(3)崩壊した生活環境の整備、(4)子どもたちが育つコミュニティの再構築、(5)崩壊した教育環境の立て直し、などが考えられます。とくに親を亡くした子どもたちに対する社会的養護(代替養護)は、可能なかぎり里親さんなどによる家庭的養護であるべきです。

 避難所になっている中学校で卒業式がありました。卒業生が答辞で読んだ「……いま不安というくらやみの中にいます。私たちはこの暗闇に光を灯さなければなりません……」という言葉が胸にささっています。彼らが光を灯すために私たちは支援の絆をより太く、より強くしていかなければなりません。

 

 

 

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