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編集後記  第59巻8号 2011年8月
 

▼保健師という業種をご存知だろうか。筆者の職業的背景は保健師である。保健師資格を得るには、看護師免許を持っていることが必須条件で、保健師としての教育をプラス1年受けて国家試験に合格すれば保健師になることができる。現在は9割以上の保健師が大学で教育されており、看護学生は卒業前に看護師と保健師の国家試験を同時期に受け、合格した場合は1日違いの日付で(当然、看護師が1日前)双方の免許を得ることになる。
 保健師の働く場は行政、産業、そして学校が三大領域である。とはいえ、学校で働く場合は養護教諭免許を使うため、「保健師」ということで表に出ることはない。なお養護教諭の中には保健師の教育背景を持たない場合もある。
 行政で働く保健師は、自分の担当地域に住んでいるすべての世代の住民に関わる。子どもとの関わりは、母子手帳の交付の時から始まり、子どもが生まれた後は、家庭訪問をして子どもの成長発達を観察したり、母親の育児を支援する。その後も子どもに大きな問題がない場合でも、定期的な健診の場で関わり、その関わりは子どもが学校に入るまで続く。成長発達等に問題を有する子どもの場合は、関わりは濃厚なものになる。

▼ところでこの原稿は東北大震災から2カ月と少し経った時点で書いている。災害の翌日の3月12日には、被災自治体の要請を受け、全国の県・保健所設置市から108チームの保健師が被災地に入った。そして保健師派遣は現在でも続いている。現時点で保健師は自宅に住む方々の家庭を訪問して健康状態や必要な支援の判断とそれに基づく支援や、避難所の方々の健康管理等を行っている。
 災害後の子どもに関わる健康問題に関しては、阪神淡路大震災の経験から、災害後のPTSDなどの精神的な問題を中心に一定の対応が整理されてきた。しかし、今回の災害は、被害の範囲や規模の大きさや、地震だけではなく津波や放射能が加わった災害であること等により、過去にはなかった事態が生じている。
 たとえば避難所においては、今でも食事が菓子パンやカップラーメンが日常である状況、改善されない風呂やトイレ等の清潔の問題、子どもが「遊ぶ」ことが保証されないこと、性の問題等がある。発達に問題を有する子どもが避難所にいることが難しいにもかかわらず行き場がない、といった状況も聞く。それ以外に、子どもだけ、あるいは母子だけの「疎開」、教育の中での放射線の問題もある。自治体によっては上述した健診ができずにいるところもあり、健診ができても母子手帳も自治体の記録も流されてしまったために、過去の成長の状況や予防接種の状況が確認できないこと等も生じている。

▼以前から教育と保健医療との連携の必要性が言われてきたが、今ほどこれが求められる時もない。筆者の立場からは、生活の観点から健康を支援することを専門性とする保健師と教育現場の連携により、少しでもよいケアが提供されることを願っている。

 

 

(鳩野洋子)
 
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