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編集後記  第64巻7号 2016年7月
 

▼私事になりますが、2015年の3月に約30年ぶりにネパールに行ってまいりました。カトマンズやポカラのネット環境など、この30年間に大きく変化したところもありましたが、ダルバール広場や世界遺産の古都バクタプルなどは昔と変わりありませんでした。15日に帰国して、その40日後の4月25日、ネパール地震が起こりました。私は、訪れた場所や建物の無残な状況とそこで悲嘆に暮れる人々をニュースで目の当たりにし、大きなショックを受けました。全人口の約30%にあたる約800万人が被災したということです。
 そして今年の4月14日、熊本で最初の大きな地震がありました。今回の熊本地震は、気象庁震度階級では最も大きい震度7を2回も観測する巨大地震で熊本と大分で大きな被害が生じました。この編集後記の原稿を執筆している現在(5月末)でも、熊本では震度3クラスの余震が続いています。住宅やマンションの建設関係の仕事に携わっている知り合いは、大きく報道はされてはいないのだけれど、熊本では建築物の被害が甚大であり、現在、膨大な数の相談を受けているそうです。

▼最初の大きな地震は、ちょうど大学院の夜間の授業を終え研究室(福岡)に戻ったその時でした。携帯電話の緊急地震速報の後すぐにこれまで経験したことのない大きな揺れが来ました。実際に被害に遭われた地域の方々にとっては、そんなことはたいしたことではないと叱られると思いますが、地震の揺れ以上に、その警報の音と声には本当に驚きました。
 私の勤務する大学には、中国や韓国をはじめ、多くの外国人留学生がいます。彼ら彼女らの多くは地震の経験がありません。地震そのものに対して大変怖い思いをしたとともに、あとで話を聞くと、その後も続いた緊急地震速報を聞くたびにえも言われぬ恐怖を感じたようです。
 2005年3月20日、当時私は他県に住んでおり、直接の被害を受けることはありませんでしたが、現在勤務する大学のある福岡も西方沖地震を経験しています。しかし、今回留学生たちは地震への対処や避難場所についての情報を持っておらず、どうしてよいかわからない状況で右往左往したようで、残念ながら、その経験は活かされなかったと言わざるを得ません。

▼2011年3月11日東日本大震災を経験した私たちにとって、また大きな災害を経験したことになります。ネパールを地震直前に訪れたことも偶然なのですが、実は3.11の直後にも本誌2011年5月号の編集後記を書かせてもらっています。私はその際、次のように書きましたが、日本で世界で災害被害を受け苦しんでいる地域の方々に向けて、今もその思いは変わりません。
 「これから震災の被害を受けた地域の復興が本格的に始まっていく。建物や施設といったハード面の復興はもちろん大切だが、それよりも、そこに住まう人間のあり方や関係性といったソフト面の復興がもっと重要である。教育は、そのことに深い次元でコミットしていかなくてはならないのではないか」と。

 

(田上 哲)
 
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